下町ホスト#24
ホストクラブの最寄り駅の裏路地を抜け、ひたすら真っ直ぐ進み、交通量の少ない通りに出たところにチャリンとベルを鳴らす君のマンションがあった
まわりのマンションに比べて特別に真新しいわけではないが、若々しく堂々と聳え立っている
一階にある駐車場はぎゅうぎゅうに車が敷き詰められていて、その脇に量産型のママチャリ達がちきんと整列させられていた
マンションの管理人らしき老人が私を怪しい目でチラチラ見ている
視線をなるべく下げてマンション内部へそそくさと入った
オートロックを解除するために、セカンドバックから携帯電話を取り出し、君に連絡をする
簡単な三桁の数字のみ返信があり、それを打ち込んで、すんなりオートロックは解除された
エントランスは広く赤い絨毯が、入り口から遠くの方にあるエレベーターまで敷かれている
エレベーターまで向かう広間には背の低いテーブルが幾つか並べられ、休憩ができるようになっている
私は人目につかなそうなテーブルに鞄を置いて、黒いソファに腰をかけた
呼吸を整えてから、ゆっくりと立ち上がり、エレベーターへ乗り込む
君のいる階の番号を押すと、エレベーターは満足げに上昇した
ほどなくして君がいるフロアで扉が開き、壁に記されている部屋番号の矢印を頼りに、進んでゆく
日当たりのよさそうな角部屋の前に辿り着いた瞬間に扉が開き君が出迎えた
君は特に言葉を発さず、そそくさと私を家に招き入れる
私は清潔な整頓された玄関に不安が仄かに香る革靴を丁寧に脱いで揃えた
君は玄関の鍵を二つ閉めて、チェーンロックを掛けてから、ようやく潤った唇が開いた
「ちゃんと来てくれたんだ」
「そりゃ来ますよ」
「来てくれないのかと思った」
「なんでですか?」
「うふふ」
「引越ししたんですね」
「うん、だいぶ前だけど」
「家族本当にいないですよね?」
「うん、いないから気にしないで」
「はい、、」
「亮は元気ですか?」
「うん、元気よ」
「なら良かったっす」
「他に気になることは?」
「いや、えー」
と視線を左下に落とした瞬間に君の冷たい舌が私の口内を埋め尽くす
次の瞬間になんとなく見えていたソファに押し倒され、私は人形のようにスーツを剥がされてゆく
君はスカーフのようなツルツルとした素材のもので私の視界を覆った
部屋が明るいせいか、目を凝らすとぼんやりと君のシルエットが見える
スーツやワイシャツは早々に投げ捨てられ、安物のパンツとズボンが申し訳程度に下半身を覆う
君は狂ったように私の皮膚を吸い、残りの衣服を剥ぎ取ってから、どうやら自らの服もすべて脱いだようだった
時折、君は何か私に尋ねるけれど、きっと私の答えを必要とはしていないだろうから、適当な音を発して、小刻みに首を動かした
乾燥した肌が君の唾液と汗で湿ってゆく
ひ弱に聳え立ったものは、あっという間に君の内側に包まれ、熱を帯びる
悶え苦しむ私を君は黙って見下ろしていた
近くにあった携帯電話が光り、それを横目に、聳え立ったものが、白濁した液体を吐き出した
君は満足そうにシャワーを浴びにその場からさっさと消えた
私は携帯電話を開きメールを見る
今日も行くー! 今どこいるの?
眼鏡ギャルの軽快な笑い声が頭の中で再生される
私は、これから店に行くと小さく大きな嘘を打ち込んで送信した
シャワーから戻った君は裸で俯いている僕を見て、これ息子のだけどと言って、大きめのTシャツをこちらへ投げた
かつて私が家に入ると喜び、九九の六の段以降に苦しんだあの少年の背丈は、どうやら私と同じかそれ以上になっているようだ
私は携帯電話を折りたたんで、Tシャツに首を突っ込む
平和な匂いが重たく鼻腔を抜けた
「へらへら」
魚屋で薔薇を買ったらじりじりと君は千切って風呂に浮かべる
空っぽの林檎の皮を剥きながら人を真似てる機械と話す
なまぬるい塩水に浸る胴体をさきほど買った白紙で包む
へらへらとこの世で一番適当に舗装されてるあいつの思考
脳味噌のやらしい襞にアイロンをあてたらやっと眠たくなった
歌舞伎町で待っている君を
歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。
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