
土曜日。
仕事の都合でお昼のピンポイントしか時間がとれず、ほんの1時間だけ歯医者のあるとある街へ。マウスピースを取りに行く。
1ヶ月前、歯が痛くて歯医者に行くと、噛み締めが強すぎて歯が削れたのが原因とのこと。ストレスとかね、気をつけるといいんだけどとのことで、治療が完了したところで、寝る時用のマウスピースを作ってもらった。
治療済みの歯のチェックと受け取りだけのため、10分もかからず終わってしまった。

次の移動には早すぎる。
駅前でお昼を済ませようかと考えるも、休日だからかどこも混んでいた。3軒目に覗いたマクドナルドにて。
お店に入ると「先にお席をお取りください」と聞こえ、空いている席を探す。奥まで行くも満席。2階にも足を伸ばし確認したけれど、満席。諦めて1階に降りてお店を出ようと歩いていくと、カウンターの1席だけ空いていた。あら、ラッキーだわと思った瞬間、ただならぬオーラを感じ、隣の席にしっかりと目をうつす。珍しいかたちのおしゃれなベレー帽の下からは、整えられたグレーヘアがみえる。品のあるツーピースをお召しになっている素敵なご婦人。足元はロングブーツ。ヒールは6センチはあるだろう。
普段、ヒールを履く方はお分かりだと思うけれど、6センチヒールは、慣れていないとなかなか履けない。3センチ程までが快適に歩ける範囲だろう。6センチともなると、慣れている方しか履かないと思う。私は一応一足だけ6.5センチヒールのブーツを持っているけれど、滅多に履かない。
仕事柄たまにヒールを履くため、練習用に慣らす用に持っているだけ。普段はなかなか履くことがない。
ヒールを履きこなすご婦人の後ろ姿に一目惚れ。ドキドキしながら、お隣に座った。
私はモバイルオーダーを済ませ、席で待つ。
その間、ちらっとどうしてもお隣のご婦人が気になってしまう。ハンバーガーとポテトと、シェイクを飲んでいたご婦人。包み紙から出したハンバーガーを両手でしっかりと持ち、ポテトを食べるときには、包み紙の上にハンバーガーを置く。シェイクを飲む時は、しっかりと、右手でストロー、左手でカップを持つ。ひとつひとつの動作が丁寧で美しかった。品があるのだ。品があるハンバーガーの食べ方は包み紙のままではなく、そこから出して食べることなのかしらと私が勝手に思っている間にハンバーガーを食べ終えたご婦人は、包みの紙を丁寧に折りたたみ、空になったポテトの容器の中に閉まった。そしてそれを押しつぶし、スマートにゴミをまとめた。
う、うつくしい!やっぱり美しい。
ご婦人は、テーブルの上に置いてあった、アンティーク調のバックの上に置かれた皮の手袋をずらした。
メイクポーチのようなかたちをしていたバックの蓋をあけると、そこには鏡がついていた。
ご婦人は中から口紅を取り出し、鏡を見ながら唇に塗り出した。
スマート!なんてスマートなんだ、、バックに鏡がついているなんて。そんなとこまでスマートで美しいのか!
口紅をしまったご婦人が次にバックから取り出したのは、カードケースだった。私側に置かれたカードケース。ふと目に入ってしまった。
「シルバーパス。〇〇おつね」の文字。
お、おつねさん!お名前目に入ってしまいました。すみません。個人情報ですので、あまりよろしくないとはわかっていますが、なんて素敵なお名前!素敵なご婦人は素敵なお名前で、ますます惚れてしまった私。
もっと驚いたのは、シルバーパスを所有しているということは、ご婦人は70歳以上ということ。
ビシッと決まったファッション、高いヒールを履きこなし、ハンバーガーを美しく食べる。真っ赤な口紅を手慣れたように塗る70歳以上のご婦人。
かっこいい。かっこよすぎる。
あんな風なおばあさまになれたら素敵すぎる。
ストレス溜めて食いしばってる場合じゃないぞ。
何歳になっても自分の好きなお洋服を来て、1人でマクドナルドに行って、ハンバーガーを食べるおつねさんのように、私はなりたい。

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いつまで自分でせいいっぱい?

自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、リアルな日常を綴る。