
一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第42回 久坂部羊『絵馬と脅迫状』

人医師として自分の勤務する病院で働きだし
た。やがて不可解な事件が院内で続発する。
彼は一体、誰か?(「爪の伸びた遺体」)
信心は皆無、医学のみを信奉する内科医が、
病院そばの神社で同僚外科医が「手術が無事
に終わりますように」と書いた絵馬を誤って割り、
以来、降りかかる悲劇(「絵馬」)─。
全6篇の傑作短編集。
皆さん、こんにちは。脅迫よりも漂泊好きなアルパカ内田です。
ここに収められた6つの物語は、上質なミステリーもあれば、ホラーやサスペンス、ブラックユーモアまである。短くとも奥深い内容とバラエティ豊かなアイディアに言葉を失った。舞台に共通するのは、誰もが生まれてから死ぬまで大きな関わりを持つ「医」の現場であること。現役医師である著者の真骨頂を存分に味わえる贅沢な作品だ。
たとえば冒頭の「爪の伸びた遺体」は、自死した親友の遺体の奇妙な違和感から始まる。10日前に会った時に深く切り揃えられていた爪がなぜ死の直後には伸びていたのか。そして7年後、勤務する病院の研修医として現れたのは、その親友とそっくりな人物だった。タダならぬ導入から畳みかける展開、そして仰天の結末に打ち震えてもらいたい。
血腥い事件、正義を貫けない研究者の葛藤、理不尽な病院の実態。「医」の現場とは、まさに善と悪、光と闇が渦巻く場所でもある。人の命を預かる医者、それを委ねる患者とその家族。知の最高峰ともいうべき「医」の最先端は、神の領域に踏み込んでいる。間近に迫った死と対峙したとき、人は何を信じればいいのであろうか。タイトルに込められた意味もまた刺激的だ。
圧倒的なリアルで暴かれるのは、欲望によって歪んでしまった人間たちの生々しい素顔だ。とりわけ切れ味鋭い文章は、研ぎ澄まされたメスのよう。それぞれのラストに背筋が凍りつく。一度目にしたら脳裏に焼きついて離れない。出合ったことのない恐怖を体感できるトラウマ必至の一冊である。

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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