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マンガだけでも、いいかもしれない。

2014.10.22 公開 ポスト

最終回

「大島弓子――失われた性を超えて」序論
福田里香+藤本由香里+やまだないと『大島弓子にあこがれて』
中条省平

大島弓子を分かりたがる男たちはキモい

 大島弓子ファンであることを自慢したことは一度もありませんが、そういう男性ファンは多いらしく、長年の友人、吉田保が編集長をしている「フリースタイル」という総合文化誌(2005年10月)を読んでいたら、やまだないとと福田里香とよしながふみによる「私たちの『少女漫画』」という特集の鼎談が掲載されていて、そこにこんな会話がありました。
やまだ 男の人って大島弓子、分かりたがるよね。
よしなが 学者の先生とか好きですよね。なんでなんだろう。
やまだ [略]私がゲイの人たちに、私、ゲイの気持ちが理解できるって少女マンガの感覚で言っちゃうみたいな居心地の悪さ、恥ずかしさを感じるのね、男の人が大島弓子を解き明かそうとするのを見てると。そりゃ無理だよ、女の子に生まれなかったんだからあきらめな、って思うんだけど。[略]だって男の人が大島弓子を解き明かそうとするとさ、必ず『バナナブレッドのプディング』でしょ。それでセックスがどうのこうのって言い出すじゃん(笑)」

 かくして、大島弓子を分かりたがる男のファンとか学者の先生とかは、端的にいって女性にとって「キモい」のだなということをキモに銘じたわけですが、この話題には続編があって、そちらはさらに大変なことになっていました。

三浦[しをん] 私は一時期インテリみたいな男の人が、24年組を語るのがホントに腹立たしかったんですよ。しかも彼らはちゃんと読めてないんですよ![略]大島弓子さんのマンガは、男の人に誤解されて好かれている、とプンスカしてました。
よしなが[ふみ] 『綿の国星』の猫耳のチビ猫ちゃんを見て、『あれが少女の化身で』って言い方をするんだけど、違う、私たちが同化しているのはむしろ時夫で彼に共感してチビ猫を眺めているのであって、誰もチビ猫に共感していつまでも少女でいたい願望をこのにゃんこに託したりなんかしていません私たち! みたいな。
三浦 そうなんですよ! 何一つわかっちゃいない!」(よしながふみ対談集『あのひととここだけのおしゃべり』)

 こんなふうに女性たちは苛立っていたわけです。もちろん、逆に、なぜ女性たちはとりわけ大島弓子ファンの男性をそんなに腹立たしく感じるのかという問いも可能ではあり、おそらくそこにはジェンダーの微妙な問題も介在しているのでしょうが、それはともかく、男性の女性庇護的、すなわちファロサントリック(男根中心主義的)な解釈を超えて、大島弓子の世界を眺めたらどんな風景が見えてくるか、という問いにたいする回答のすぐれた試みが、今回取りあげる『大島弓子にあこがれて』だというわけです。

 

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マンガだけでも、いいかもしれない。

いまやマンガは教養だ――。国内外問わず豊穣なる沃野をさらに掘り起こす唯一無二のマンガ時事評論。

※本連載は雑誌「星星峡」からの移行コンテンツです。幻冬舎plusでは2011/04/01から2014/04/17までの掲載となっております。

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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