■日本のリベラル知識人層に決定的に欠けているもの
――将来見通しから、目前の解散総選挙に視点を移したときに、リベラルでかつ経済のことも真摯に考えたい人は、まさにジレンマそのものの状況だと思います。端的に、安部首相という人が嫌いとだいう方は少なくないと思います。
片岡 安倍政権に嫌悪感を持つ方は、人の痛みを考えられる、優しい方が多いのだろうと思います。いわゆるリベラル層ですよね。
もともと「景気を良くしよう」という主張は、リベラル層が言うべきことであったはずです。よく言われることですが、欧米諸国では金融緩和はリベラル政党の主張であり、武器です。富裕な保守層ほど金融政策や景気対策には冷淡な傾向があります。ところが日本では保守とみなされる勢力が、金融政策を武器に政権を奪還してしまいました。
日本のリベラル層が経済政策に弱かったというのは、20年来の停滞の一つの要因だと思います。誰からも見落とされてきた場所にうまく入り込んできたのが、安倍さんのうまさだと思うんですよね。岸信介、安倍晋太郎の系譜で培われた勘のようなものがある方なのでしょう。国民に求められているものに敏感である、政治家として大成するために必須の特徴を備えていると思います。
逆に言うと、安倍さんにあるそういった感覚が、いわゆる知識人層のリベラルには決定的に欠けている。TPPや集団的自衛権も重要な論点であることは言うまでもありません。ただ、そういった論点だけを問題視して、いま生活に困っている人に手を差し伸べなくていいのか、国民全体が問題視していることにどこまでタッチできているのかという疑問が拭えません。自身の関心事のフレームだけで議論してきたのが、この国のリベラルだったように思えます。
「人はパンのみにて生きる者にあらず」も真実ですが、パンさえなければ、現実問題として生きられないのも真実なんです。「同情するより金をくれ」と言わざるを得ないリアリティを認識して、その上で「パンのみ」ではない社会をつくっていくための提案をするべきだと思うんですよね。
――主張そのものは文句のつけようのないくらい立派なものであっても、「いまの俺の生活はどうすればいいのか」という問いには答えられない。「これは新しい経済システムへの移行期的混乱なんだ」と答えるだけでは、「痛みに耐えて構造改革を断行する」と言っていた人とコインの裏表に思えます。
片岡 同じことが民主党にも言えると思います。民主党の言っていることは非常に立派なことです。税収を増やして社会保障を厚くしていかないといけない。お年寄りが一人きりで困るのでなく、できるかぎり国の関与を強める、これは正しいと思います。
だけど、それだけではきれいごとなんですよ。現実問題として財源がなければダメで、そこで増税をしてしまったら、いま困っているお年寄りはもっと困ることになるんですね。増税で取られた税金が仮に100%本人に戻ってきたとしても、状況は変わっていません。
状況を変えるためには、成長して、分配するパイを増やさなければただの分捕り合戦になってしまいます。どこかの困っている人に大きなパイが分配されると、どこかでもっと困った人が出てきてしまう。そのリアリティが決定的に欠けていると思います。