■消費税を社会保障の財源にするのがそもそもの間違い
――安倍政権の経済面での問題は、再分配や社会保障への冷淡さのように思うのですが、社会保障と税の一体改革により消費税が社会保障の財源にされてしまったことで、「消費税増税やむなし」という意見もよく見かけます。しかしこの本では「消費税増税による増収分をすべて社会保障費にあてるとしても、高齢化の進行により急増する社会保障費の財源を満たすのは不可能」と明言されていますね。
片岡 ええ。マイルドな成長の持続があって初めて、増税分をどうやって撒くのかという話ができるようになります。消費税はパイが拡大するか縮小するかにかかわらず、全員から均等に取るという性格の税ですが、それは低所得者の負担を重くします。
本でも触れている通り、再増税以降の家計消費の推移を総務省「家計調査報告」で見ても、悪化が深刻なのは最も世帯所得の低い第一分位と第二分位で、さらに非正規労働者の悪化度合いが深刻なのも確認できます。それなのに再増税を行い、それを原資に社会保障を行うということは、低所得者から厚く取ってもう一度低所得者に戻すのと変わりません。さらに消費税の引き上げが、もともとあったパイを縮ませることにもなるので、多くとって少なく戻すことにもつながる可能性があります。
これでは困っている人が陥っている状況は、永遠に解消できません。社会保障には将来への支えという側面もありますが、現役世代が貧しくなれば、将来の老年世代はより縮小された社会保障の下で生きていかざるを得ません。これは矛盾の拡大生産に等しいのではないかと思います。
たとえば子育て支援はとても重要です。子育て支援の財源が消費税に紐づけられているから増税に賛成だという人もいますが、率直にいえばその主張は非常にナイーブだと思いますね。
子育て支援が本当に重要なのであれば、それは消費税という逆進性の高い税収を財源にするのではなく、いついかなる状況でもしっかり支出させることを、国に約束させるべきなんです。
国は経済成長を安定的にしていれば、税収は毎年きちんと担保できます。そもそも税収は経済成長のパイが膨らめば膨らむほど多くなります。増税をしなくても取れる、つまりそれが安定財源なんですよ。もっとも今までは政府がしっかりと経済運営をしてこなかったから、安定財源たり得ないわけですけれども。
■「日本は消費税負担の低い国」というのも実は誤り
――「日本は先進国よりも消費税率が低い」という論調もよく見かけます。
片岡 それも正確ではありません。国の税収に占める消費税の割合は、すでに欧米諸国のそれと同じくらいなんですよ。
たしかに欧州の多くの国は、消費税率を20%以上に上げています。8%の消費税率で、なぜそんなことが起こってしまうのか。
それは、法人税や所得税がしっかりと取れていないからなんです。問題にすべきは法人税や所得税です。けれども悲しいことに日本では、欧州の20%超の消費税率に対して8%しかないので、まだ消費税で取れるはずだと言われているんですよ。それをすれば所得税や法人税の税収は縮まってしまうので、たしかに消費税の比重はぐんと上がります。でも全体の税収は低くなる。これは明らかに非効率です。