パリの新聞社「シャルリー・エブド」襲撃事件の記憶もまだ生々しいなか、イスラム過激派組織「イスラム国」による、日本人人質事件が勃発。日本中が新たな衝撃に打ちのめされました。
日本人にとっては寝耳に水のような人質事件、そして「イスラム国」の出現。すべての歴史的事件と同じように、これらは決して「突然」のことではありません。
今回の事件はなぜ起こったのか。世界はこれからどうなるのか。
1月30発売の幻冬舎新書新刊『イスラム国の野望』で、それを解説してくれるのはテレビのコメンテーターとしてもおなじみ、放送大学教授の高橋和夫先生。
本書の担当編集・小木田が勝手に「中東問題の池上彰氏」と名付けているように、複雑な中東情勢も、高橋先生が解説すると、驚くほどよくわかります。
ここでは、発売にさきがけて、本書の「はじめに」と目次の抜粋を公開します。
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2014年6月、イラク・シリアの両国にまたがって急速に勢力を拡大していたイスラム過激派の一組織が「イスラム国」の樹立を宣言しました。
もちろん勝手に「国」と名乗っているだけで、正式な国家ではありませんが、世界的にイスラム教徒の人口が増え、その影響力が増すなかで、全イスラム教徒の代表を自称する国家の樹立が宣言されたことは、世界中に大きな衝撃を与えました。
多くの人々が、イスラム国と聞いてまず思うのは、その残虐さでしょう。
拉致したアメリカ人ジャーナリストやイギリス人のNGO関係者の首を切って殺害す
る様子は、動画としてインターネット上で公開されました。
また、現地ではマイノリティの女性の「奴隷化」や子どもの誘拐が組織だって行われ、
世界中から非難を浴びています。
ニュースでも、脱走しようとした外国人兵士が多数殺害されたとか、喫煙していた民間人が指を折られたなど、イスラム国の残酷な行為は連日のように報じられています。
しかし、この「国」は、単にテロ行為や恐怖政治によってだけで、勢力を拡大し支配
を維持しているわけではありません。
なぜ活動資金を得られるのか。
なぜイスラム国の兵士になることを志願して、世界中から若者が集まるのか。
なぜ欧米を中心とした有志連合による空爆が行われているのに、倒せないのか。
これらは、恐怖政治を敷いているから、兵力が強いからといったことだけでは、説明
ができません。
なぜイスラム国が登場し、なぜ世界中がこれを脅威とみなしているのかを理解するに
は、現状と歴史的背景の両方を、立体的に見る必要があります。
とはいえ、ここ数十年の歴史をさかのぼっても、中東地域は、世界有数の紛争多発地
域で、多くの国、民族、宗教組織の対立がからみあい、その全体像を把握するのはなか
なか難しいのも事実です。
そこで本書では、複雑な枝葉の部分をできるだけ省略し、大事なポイントだけを絞り
に絞って、最大限にシンプルな解説をするよう心がけました。
本書がイスラム国登場の背景と意味を考えるきっかけとなればと願っています。
イスラムと中東問題は、今後とも国際情勢を左右するでしょう。刊行の最終作業をしていた2015年1月にも、パリでイスラム過激派による連続テロ事件が起きました。本書が、その理解の一助となれば幸いです。それが著者の「野望」です。
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