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メンタル童貞を育む現代社会

竹村 今は90年代よりも女の子が献身的になっていて、多くが「結婚して“もらわなきゃ”いけない」と下手(したて)に出ています。かつては「女の子は威張って良し」みたいなムードがありましたけど、今やほとんどありません。

田房 ないです。全然ないです。

竹村 今の中年童貞の親世代である団塊世代の時代には、まだお見合い結婚が制度として生きていましたが……。

田房 お見合い結婚制度を充実させたほうがいいってことですか? たしかに、結婚すれば中年童貞も変わると、さっき中村さんもおっしゃっていましたけど。

竹村 でも、結婚直前までは実家で自分の母親の息子としてふるまい、結婚後はすぐ“妻の息子”となってしまう男の人も多いですよね。童貞でなくとも、生まれてからずっと息子的ふるまいしかできないお父さんがすごく多い気がします。日本には元々「母と息子」しかいないのに、ここ20年くらいで、急に恋愛至上主義だとか自由恋愛だとかいう場所に、男たちが放り出されたんじゃないでしょうか。だからうまく相手を作れないし、作り方を教えてくれる人もいない。

中村 しかも母親に長らく胎児として扱われた男は、実家で王様として君臨していたから、仮に結婚できたとしても、母親もしくは母親的な妻としか住めない。まさに“メンタル中年童貞”です。

田房 「料理しない、できない女はダメだ」っていう認識が未だにありますよね。社会人は男も女も同じ働き方、同じ収入、同じ生活をしているのに、なんで女だけ家に帰って料理をちゃんとしなきゃならないのか、分からないです。一般人の自宅を訪問するテレビ番組で、バイトを掛け持ちしてる多忙な一人暮らしの女の子の冷蔵庫に何もなくてカップ麺を食べてたんですけど、スタジオでVTRを見てるお笑い芸人たちに「ダメだな!」って言われてました。一方、奥さんが出て行っちゃったサラリーマン男は、「ご飯は炊いてる」と言って50時間保温してたんだけど、誉められてました。

中村 ああ、わかります……。

田房 “息子”のまま20代を過ごして、彼女のことを「自分を気持ちよくする人」としてしか捉えないで、結婚相手も「自分の世話をしてくれるかどうか」で選んだメンタル童貞男は、子供が生まれても家事なんかやるはずないですよね。むしろ、「自分が家事をやるなんて負けだ」とくらい思ってるんじゃないかと思う。

中村 奥さんとしては、たまったものじゃないですね。

田房 男って、奥さんが家を出ていって一人になっても、仕事や経済力があれば、家事は外食やクリーニングでなんとかなるし、女の人と触れ合いたかったら風俗がありますよね。最近は性風俗とは別に、単身高齢者向けの若い女の子がデートしてくれるサービスもあるらしいです。結局男は、娼婦だろうが母だろうが妻だろうが娘だろうが、いつでも誰かしらの女にケアされる権利を、生まれながらにして持ってるんですよ。でも女にはそれがない。女は自分をケアしてくれる相手を一生、自分でなんとかしなきゃいけない。

中村 男は元来甘やかされすぎであり、負け続けてもなんとかなるってことですか?

田房 はい。それがまさに、中年童貞およびメンタル童貞を生み出すシステムそのものだと思います。女に捨てられても次の女がいる。最悪お金を出せばなんとかなるという、男の人が圧倒的に“許されている”状況と、それによる負担のほぼすべてが女に覆い被さっているという歴史、そのはざまで産声を挙げたのが、中年童貞というモンスターではないでしょうか。
(第3回に続く)
 

関連書籍

中村淳彦『職業としてのAV女優』

業界の低迷で、100万円も珍しくなかった最盛期の日当は、現在は3万円以下というケースもあるAV女優の仕事。それでも自ら志願する女性は増える一方だ。かつては、「早く足を洗いたい」女性が大半だったが、現在は「長く続けたい」とみな願っている。収入よりも、誰かに必要とされ、褒められることが生きがいになっているからだ。カラダを売る仕事は、なぜ普通の女性が選択する普通の仕事になったのか? 長年、女優へのインタビューを続ける著者が収入、労働環境、意識の変化をレポート。求人誌に載らない職業案内。

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『ルポ中年童貞』刊行記念対談 中年童貞はなぜ増えているのだろう? ~その社会と構造を考える~

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田房永子 漫画家

1978年生まれ、東京都出身。漫画家、コラムニスト。第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2012年、母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を刊行し、ベストセラーに。他の著書に『ママだって人間』『キレる私をやめたい』『人間関係のモヤモヤは3日で片付く』『喫茶 行動と人格』などがある。最新刊は『女40代はおそろしい』。

中村淳彦

1972年生まれ。ノンフィクションライター。AV女優や風俗、介護などの現場をフィールドワークとして取材・執筆を続ける。貧困化する日本の現実を可視化するために、さまざまな過酷な現場の話にひたすら耳を傾け続けている。『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)はニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞ノミネートされた。著書に『新型コロナと貧困女子』(宝島新書)、『日本の貧困女子』(SB新書)、『職業としてのAV女優』『ルポ中年童貞』(幻冬舎新書)など多数がある。また『名前のない女たち』シリーズは劇場映画化もされている。

 

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