コンビニ・ホスピリティが日本をダメにする
東 今日話していることと対極的な事例になりますが、日本でコンビニエンスストアに買い物に行くたびに驚きます。バイトの人がすごい種類の仕事をしている。物を売るだけじゃなくて、公的なお金の支払いを受け付けたり、からあげやおでんを作ったり、宅急便も受け取っている。日本は、あれだけの仕事をバイトがつつがなくこなすことを前提としている国なんです。たいへんすごいことだけど、最近は、逆にこれをやっているからこの国はダメなんだという気もするんです。コンビニでは奇跡のような便利さが低コストで実現できている。だから消費者の要求もどんどん高くなっていく。都会のコンビニでは、3時間後に雨が降るという予報が出ると、トラックが傘を持ってやってきて、雨が去るとまたトラックが来て傘が撤去されると聞きます。つまり、今のコンビニは、バックヤードがなくって、ちょっと商品がなくなるとトラックがすぐに来て納品する。まったく無駄がないのだけど、そこまでやる必要があるのかとも思うんですよね。
瀬口 NYだと雨が降ると急に傘売りが出てくるんですけどね。
東 本当はそれで十分ですよね。そのぶん傘の単価も高いんでしょうが、別にそれでもいいのではないか。日本では使い捨ての傘は500円を切ってきているけど、それは本当に人々が求めているものだったのか。逆に、リゾートホテルはコンビニの対極みたいなところがあって、だから日本人からすると過ごしにくいところでもあります。ルームサービスを使えば夜中でもコーヒーが飲めるけど、日本人の常識では、むしろ自動販売機や二四時間営業のショップが欲しい。海外のリゾートでは、爪切りが欲しいとフロントに電話しないといけなかったりする。
瀬口 必要なときだけ呼ぶスタイルですからね。
東 でもそれがホスピタリティだったりするんですね。一時「おもてなし」という言葉がはやりましたが、日本人がイメージしているのはコンビニのホスピタリティであって、世界の人が求めているホスピタリティと違うのかもしれない。
瀬口 海外は「ほっといてくれ」というホスピタリティですね。
東 たとえ効率が悪くても、スタッフが誠意を持って動いてくれるのがホスピタリティだったりする。他方で、日本人はボタンを押すとストレスなく規格品がぱっと出てくるのがホスピタリティだと思っているところがある。コンビニはいまや日本では社会のインフラそのもので、あそこには日本社会のいいところと悪いところが集約しているように思います。
瀬口 いまアジアでもどんどん増えていますよね。
東 リゾートホテルにコンビニができるようになったら終わりですね(笑)。
瀬口 便利さをどこまで適えてあげるかというのは悩みどころです。
東 『弱いつながり』は「コンビニ的日本からの脱出」というテーマの本でもある。
瀬口 日本人はアメニティへの要求も高いですし、虫を好まないお客様も多くいらっしゃいます。でも、南国での虫は、防ぎようがありません。それがスタッフたちにはネガティブな経験としてストレスになることもあります。『弱いつながり』を読むとそれを解放できるというかホッとすると思います。
東 僕は観光業というのは、世の中において公共的な意味を持っていると思います。単なる消費だと思われているが、そうではない。
瀬口 私も『弱いつながり』を読んで、観光が公共的であることをあらためて知った思いです。希望を与えられました。
東 世界平和は観光が作るのかもしれない。国と国はケンカしていても、個人が行き来しているという現実が非常に大事だと思っています。
(了)