ミモザという花の名前のカクテルがある。シャンパンとオレンジ果汁を混ぜるだけの、
ごくシンプルなカクテルである。
このミモザ、生まれたのはフランスで、19世紀の終わり頃にはもう、シャンパン・ア・ロランジュの名前で飲まれていたそうだ。オレンジのシャンパン割り、といった意味らしい。グラスに注がれたその酒の色が、春から初夏にかけて咲く黄色いミモザの花にそっくりなことから、いつかミモザの名前で呼ばれるようになったという。
ご存知シャンパンは、フランスのシュンパーニュ地方で生まれたヴァン・ムスー、つまり高級発砲酒のみに許される名称。このシャンパンと、南仏あたりで穫れたオレンジとでつくられたわけで、まさに生粋のフランス生まれ、フランス育ちのミモザである。当時の上流社会のご婦人方に特に愛飲された、贅沢なアペリチフだったようだ。
基本的なレシピは、シャンパンとオレンジ果汁半々となっているが、シャンパンを多目にしたほうが大人の風味になる。最も肝要なことは、材料がよく冷えていること。冷蔵庫から出したてのオレンジを絞り、これまたキリキリに冷やしたシャンパンを注ぐ。と、一瞬グラスの中に、あの群れて咲く黄色いミモザの小花が舞い上がる。
オレンジ風味のこのミモザ、とにかく口当たりのよさは天下一品。そして、シャンパンのあのきめ細かい気泡が湧き立つのど越しは、まさに花のシャワー。風に散り、降りしきる無数のミモザの花を思わせるような、なんとも甘美で爽やかなうまさである。
何かとシャンパンを飲む機会も多い年の始め。素人でも簡単につくれるミモザである。自宅でのパーティーなどでも、ぜひお試しを。女性たちに大受けすること、受けあいだ。酒はシャンパンにこしたことはないが、ヴァン・ムスーやスプマンテなど、普通のスパークリング・ワインでも充分うまい。
オキ・シローさんの著作『テキーラの朝やけ』(幻冬舎文庫)から「ミモザもどき」を紹介しています。ご覧ください。
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カクテル誕生秘話
※本連載は旧Webサイト(Webマガジン幻冬舎)からの移行コンテンツです。幻冬舎plusでは2000/11/01から2001/01/15までの掲載となっております。