2月にデビュー作となるエッセイ『傷口から人生。 メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』を出版した文筆家の小野美由紀さん。『自分でつくるセーフティネット~生存戦略としてのIT入門~』などで、鋭い分析から、社会の規範なき今、私たちはどうやって生きるべきかを示唆し続けてきた、作家の佐々木俊尚さん。今回の対談では、本の感想から、ドロップアウトした人が生きやすい社会、ロールモデルなき時代にいかに自分の生きる姿勢を組み立てていくか、といった話が展開されました。前編、中編、後編の3回にわたってお届けします。
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今の就活はくそったれ!
小野 佐々木さんは今の就活に対してはどう思われますか?
佐々木 くそったれで間違ってるよね。
小野 あははははは(笑)そう思いますか? ご自身はわりと就活が楽だったとおっしゃってましたけど、そういう立場の人から見たら、今の就活ってどう映るんだろう。
佐々木 だって一回失敗したら二度と浮かび上がれないっておかしいでしょ。仕事って別にどんどん変えていいと思うんだよね。よく一つの仕事を長くした方がいいっていう人がいるけど根拠がよくわからない。向いてなきゃ辞めた方がいいに決まってる。年配者が自分のすごい小さな経験から語るくだらない皮膚感覚の教訓みたいなのが多すぎて反吐が出る。
小野 はははは(笑)
佐々木 「うどんと同じで打たれたら打たれただけおいしくなる」みたいなこと言うでしょ? くだらないじゃないですかそんなの。打たれたら打たれただけ強くなるなんてないわけで、そんな根性より、ロジカルに考えて行動できる能力を高める方がいいに決まってるわけでさ。無駄に苦労する必要なんて何もないと思うんだよね。
小野 佐々木さんご自身は毎日新聞に結構長い時間いらっしゃいましたよね?
佐々木 あの頃は他に選択肢がなかったから。終身雇用で転職する人ってあまりいないっていう時代だったので。僕は毎日新聞東京社会部の記者を最後に辞めたんだけど、社会部の現役の記者で会社辞めるのは7年ぶりだって言われて。それぐらい辞める人が当時少なかった。
小野 専門職だからっていうのもあるんですかね?
佐々木 うーん、家族的な終身雇用の会社だからみんな辞めたがらないんだよね。今はどうなのかわからないけど、あの頃は定年退職したあともしょっちゅう会社に来るおじさんとかいて。「なんであんなに会社に来るんですかね?」って他の人に訊くと、「あれは会社に勤めてたってよりも大学のサークル活動やってたみたいな感じで、無理やり卒業させられちゃって寂しいから、みんな部室感覚で遊びに来るんだよ」って。そういう帰属感が強かったんじゃないかな。
小野 佐々木さんご自身はすごく柔軟な発想で仕事を捉えていた?
佐々木 だっていろんな仕事した方がいいに決まってるじゃん。年齢によって向いている仕事って変わるかもしれない。たとえば20代の頃は物事を遠くまで見る力ってないでしょ? 目の前をどうしても見ちゃうので、だったらそういう猪突猛進的な仕事の方が向いているかもしれないし、そういう能力を生かして30代、40代でコンサルに転ずるとか、金融機関に転ずるとかあるかもしれない。僕だって20代の大学生の頃まではコミュニケーションがすごく苦手だったんだよ。人と話すのは得意じゃなかったし。でも新聞記者を十何年もやっていると、しゃべるのはものすごく得意になる。インタビュー能力とかね。そうすると辞める頃には、人に訊く、人とやりとりする仕事も全然やっていけるなって思うようになっていたし、そうすると最初のスタート地点、新聞記者になった地点と辞めたときの地点では仕事に対する考え方が全然変わってるわけですよ。
小野 うーん、たしかに。
佐々木 もともとは単に文章書くのが好きだったので、もくもくと小説家みたいに書くのに憧れてたんだけど、新聞記者になってみると全然違うじゃんって。ほとんど原稿なんて書かなくて、外出るばっかりで、これはしまった、みたいな。でも、逆にそっちの方が得意になっていくというのもあるわけだから。学生時代に苦手だったことが、仕事をしているうちに変わって、別の仕事に就きたいと思うようになるってことは往々にしてあるわけでしょ。
小野 人付き合いはお好きじゃなかったけれど、就活の面接なんかは苦労されなかったんですか?
佐々木 当時は今よりも企業側の方が門戸を広げていたので、変わった人材をたくさん採ってたんだよね。
小野 へえー!
佐々木 たとえば毎日新聞だとおそらく今、年間で新卒20~30人しか採ってないんだけど、僕の頃は80人くらい、バブルの最盛期のときは120人くらい採ってる。そんだけ多く採るから変わったやつも採る。だから、よくこいつ入れたなっていう変人が結構いたりとかね。
小野 私の本で、最初に就活でパニック障害起こして倒れるシーンあるじゃないですか? あれは某丸の内のメディア系企業なんですけど。
佐々木 ああ、そうなんだ。
小野 その会社の人事の人が何人か『傷口から人生。』を読んでくれたらしくて。彼らと話したとき「うちも採用に課題を抱えていて、本当なら、型破りで、会社なんかじゃやっていけないような変な人こそ入ってほしいのに、受けてくるのはもう、定番イメージのキラキラしてて、意識が高い、リーダー的な学生しかいないから、選びようがない」と言っていて。
佐々木 でも、学生もそうやって装ってるのかもしれない。
小野 うん、そうなんですよね。
佐々木 見た目キラキラ女子じゃないと受からないとわかってるから、みんなこじれてても一生懸命キラキラしてるのかもしれないし。
小野 そうそう(笑)
佐々木 でも、それってその企業単体の問題ではなくて、そういう人しか受からないってイメージを学生に植え付けてしまった日本の産業界の構造的な問題だと思うんだよね。
小野 もう企業も得しないし、学生も得しないみたいになってしまってますね。
佐々木 結局、空気の圧力でそうなっちゃってるわけでしょ? だって誰も黒のスーツ着ろだなんて言ってないのに全員黒のスーツになっちゃったりとか。全員がキラキラしてないといけないなんて企業の側は別に言ってないんだよね、そこまで明確に。ある種の全体で作る空気感、日本社会は空気に支配されやすいってよく言われるけど、そういうのが就活を苦しくしているんじゃないかなって感じはするね。
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