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「キョーレツ」なふたり 小野美由紀さん×佐々木俊尚さん

2015.05.03 公開 ポスト

キョーレツ対談 中編

一回ドロップアウトした人が
ダメにならずに生きるためには小野美由紀(ライター・コラムニスト)/佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)

一度ドロップアウトした人がどう生きていくか

小野 佐々木さんが『自分でつくるセーフティネット』で書かれていた「弱いつながり」みたいなものが尊重される社会って、むしろ、今までの就活のシステムにのっかれなかったり、既存の社会システムであぶれていた人たちにとっては、実は結構いい環境なんじゃないかって思ったり。

佐々木 そういうのが普通になればずっといい環境になると思う。

小野 そうですね。今私、「本郷よるヒルズ」というシェアハウスに住んでるんですけど

佐々木 あ、そうだったよね。

小野 そういうところに住んでる人って、たとえば高木新平くんとか、ネット有名人とか、いわゆる「コミュ強」で「リア充」と思われているんですけど、蓋を開けてみればコミュ障だらけで。あ、これよい意味でですよ。「普通の会社じゃ絶対働けないだろう」みたいな人が集まっている。ネットの有名人なんかだいたいそうだと思うんですけど。そういう人が寄せ集まって生きる知恵をシェアできるのがネット社会のよさなのかなと。

佐々木 コミュニケーションをどこで取るかっていう問題で。リアルとネットがどんどん融合してきてるし、人間関係を築きやすいところで築けばいいじゃんっていうね。現実では目を合わせるのも難しいみたいな人であっても、ネット上では饒舌。それは一つの人格の表れ方なんじゃないかなって。ネット人格ってバカにされる必要はない。

小野 そうですね。

佐々木 かといって、ネットとリアル、全然別ってことでもない。サイバーエージェントの藤田さんが「ネット上で嫌なやつはリアルでも信用しちゃダメだ」と言っていたけど、それはそうだよね。ネットの方が人間の真価というか本質が出やすい部分ってのはたしかにあるかなって。

小野 たしかに。私自身、ブログを書くことが就活みたいなもんでしたからね、最終的には。面接はとにかくダメだったけど、文章でなら自分を表現できたから、こうやってライターとして仕事ができている。私は結構、楽観的なので、どんな人でも一つや二つは絶対に武器があるって思っていて。もし今の仕事や、就活でなかなかそれが見つからなかったとしたら、それが活かせるところをネット上の、弱いつながりを使って探していったらいいじゃんって。

佐々木 そうだね。

小野 少し前に、千葉市議会議員選挙に立候補した25歳のひきこもりニートの男性がネットで話題になりましたが、ああいう起死回生のやり方もありなんだっていう。一回ドロップアウトした人が復帰しやすい社会になってきているんじゃないかと思います。

佐々木 そうなんだよ。現状ではフェイスブックとかSNSはまだ所詮うつろな世界なので、あんなものが人間関係のインフラになるって言われてもピンと来ないって人もいっぱいいると思う。でもこういうのが人間関係の基盤になる時代が10年、20年、あるいは100年続いていくと、どうだろう? 中心を持たない、内と外の壁がなく、ゆえに参加型排除の論理が働かない共同体意識って成立しうるんじゃないのかな、って思います。最近、ヒッピーが好きで。

小野 そうなんですか(笑)

佐々木 熊本の「サイハテ」っていうヒッピーコミューンがあって。中心人物の「シンク」と、パーマカルチャーデザイナー(パーマネントにコミュニティーが維持される設計をする人)の「チコくん」って2人と仲よくなって。昔のヒッピーって、東京で学生運動やって敗れて田舎に引っ込んで20人か30人で集団生活する、みたいな感じだったんです。完全に外部と隔離されてる。通信手段は当時電話しかなかったからそうなる。そうすると、内側だけのコミュニティーだから、どんどんどんどん同調圧力が強くなって、内部分裂したり、宗教団体みたいになっちゃったりする。でも、今どきのヒッピーってフェイスブックとかみんな使いこなしているので、外に向かって開かれている。で、外に出かけていって、東京の仕事して、東京でお金稼いでまたサイハテに戻って、自分のしたいことをする。飽きたら出ていって、また新しい人が入る。ある種の入れ替え制を持っているヒッピーコミューンが出てきてて、これってある意味インターネットの時代の新しい共同体感覚に近いんじゃないのかなと。

小野 たぶん今一番強いのって、共同体を持ってる自由人ですよね。

佐々木 でも、なるほどなーと思ったのは、何もできない人がヒッピーコミューンに行ってどうするんですか? そういう人はいられないの? って訊いたら、「とりあえず入ればいいんですよ」って。で、入っていろんなこと手伝っているうちに、これならできる、みたいなのが出てくる。農業は意外と自分に向いてる、とか壁画描くのが面白かったとか、だんだん自分の向いてる仕事がわかってきて、それから自分の仕事を選択すればいいんですよ。

小野 コミュニティーにいることが人生の研鑽期間になる?

佐々木 逆に、今みたいにやってもいないのに、自分の一生の仕事を決めなきゃいけない方がおかしいわけで。だからそういうハードルの低さがちゃんと担保されていれば、限られた強者だけしかできないものでもないんじゃないかなと。

小野 シェアハウスも似た所があると思います。それが、一回ドロップアウトした人がダメにならないでどう生きるかっていう議題の答えになるのかもしれないですね。

 

⇒続きは後編(5/5日公開)に掲載します!

⇒前編はコチラ

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小野美由紀 ライター・コラムニスト

1985年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文学専攻卒業。2011年、震災を描いた絵本「ひかりのりゅう」の発売のためクラウドファンディングを立ち上げ、2014年に出版。著書に『傷口から人生。』(幻冬舎文庫)、『人生に疲れたらスペイン巡礼』(光文社新書)がある。

佐々木俊尚 作家・ジャーナリスト

新聞記者時代、著者の人間関係は深く、狭く、強かった。しかしフリーになり、リーマンショックと東日本大震災を経験して人とのつながり方を「浅く、広く、弱く」に変えた。その結果、組織特有の面倒臭さから解放され、世代を超えた面白い人たちと出会って世界が広がり、妻との関係も良好、小さいけど沢山の仕事が舞い込んできた。困難があっても「きっと誰かが少しだけでも助けてくれる」という安心感も手に入った。働き方や暮らし方が多様化した今、人間関係の悩みで消耗するのは勿体無い! 誰でも簡単に実践できる、人づきあいと単調な日々を好転させる方法。

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