殺伐とした雰囲気がただよう、最近のツイッター。このなかでクマムシ的な寛容さを持ち寄れば、少しは暖かい空間になるのに、と思わずにはいられません。今回、再掲するのは、2015年のpha(ファ)さんとクマムシ博士、こと堀川大樹さんの対談です。phaさんとクマムシには、多くの共通点があるようなのです。これからの時代を楽しくのびやかに生きるための”クマムシ的生存戦略”について語り合う対談をあらためてお楽しみください。
(構成 小沼朝生)
低代謝でしぶといクマムシ的生き方
堀川 今日はお目にかかれて光栄です。
pha いえ、こちらこそ。楽しみにしてました。
堀川 いきなりですが、phaさんはクマムシって生き物についてはご存じですか?
pha それがまったく知らないんですよ。すみません。
堀川 いえいえ、最近はお笑いコンビのクマムシのほうが有名になっちゃって(笑)。ネットで検索すると、彼らの写真ばっかり出てくるんですよ。
pha お笑いはよく知らないんですけど、そういうコンビがいるんですね。本物のクマムシとコンビ名は関係ないんですかね。
堀川 どうやら本物のクマムシみたいに、しぶとく芸能界をサバイバルできるようにという意味で命名したらしいです。クマムシは、超低温、真空、放射線などなど、とてつもないストレスに耐えられるんです。
pha そういう意味では、一般の人に「クマムシって何だろう」と思ってもらうきっかけにはなりますよね。
堀川 そうなんです。
pha 彼らとコラボされたりはしないんですか?
堀川 したいのは山々なんですが、すっかり人気者になっちゃって、忙しいやら、予算的に厳しいやらで(笑)。彼らと一度、焼き肉を食べたことがあるんですよ。その時はまだ売れる前だったんで、「イベント呼んでくださいよ」とか言ってくれてたんですけど。その直後にブレイクしちゃって。
pha へー、ちょっと検索してみていいですか。全然テレビとか見ないので知りませんでした。(スマホを見て)あ、本当だ。「クマムシ お笑いコンビ」って出てきますね。
堀川 そうなんですよ。すっかり彼らにやられました(笑)。
pha 画像検索すると、彼らと本物が交互に出てくるのがおもしろいですね。
堀川 だいたい彼らのファンが検索して、本物のクマムシを見て「キモい」とかってツイッターで書かれるんですよ。
pha でも、二つ出てくるっていいですよね。本物を調べたい人は彼らの画像を見て「誰だ、こいつは」みたいな感じで。混ざりあって、たくさんの人に伝わるっていうか。
堀川 そうですね。クマムシという名前を広めてくれたのはありがたいことです。
pha ところで、その帽子。
堀川 似合いますか(笑)?
pha というか、それを被られてる写真をよく拝見してたので、堀川さんというとその帽子込み、みたいな感じが。それは売ってないんですか?
堀川 これは世界に一つだけの特注で、1万円かけて作りました。でも、作ってくださった方には本当にこまめに制作していただいたので、1万円でもすごく安いくらいです。
pha すごい。さすがクマムシ博士。
堀川 いえいえ、僕の中でphaさんはものすごく有名な方なんですよ。かなり以前から存じ上げてたんですが、まさかお目にかかれる日が来るとは思ってもいませんでした。実はいま某出版社から『クマムシ的生き方のススメ』みたいな連載を依頼されてるんです。1年ほど前から話が進んでるんですが、まだスタートできていなくて。草稿としてphaさんの本の引用とかを書いたりしてみたんですが、残念ながらボツになり(笑)。ただ、そちらの編集者さんとも「対談できたらおもしろいですね」って話はしてたんですよ。
pha どうも僕とクマムシが似てるってことらしいですね。
堀川 そうなんです。すごくいろんな共通点があるんですけどね。まずは低代謝なところですかね。なるべくエネルギーを使わないで生きてる感じがすごいなというか。クマムシって、周囲の環境が厳しくなると、乾燥して丸まるんですね。あまり何も感じないような状態になって、そうなると何カ月もご飯を食べずに生きながらえるんですけど。乾燥した状態だと、クマムシは宇宙空間という極限的な環境でも耐えるんです。 クマムシのそういう耐性は英語でいうと“tolerance”と言うんです。耐性や抵抗性という意味では“resistance”という単語もあるんですが、それはストレスなどに対してものすごく抵抗する感じなんです。一方、“tolerance”はストレスなどを全部受け流す、要するに「寛容」なんですよ。その寛容さが、ストレスを受け流すすごく大事な要素だなと思っていて。 phaさんもいまかなり露出されてて、たぶんいろんな人から批判とかも来ると思うんですね。実際、ネットでそういう批判をたまに見ますし、強烈な言葉とかもあるじゃないですか。でも、phaさんはあまり意に介していない感じがして。その強さは“resistance”じゃなくって“tolerance”、つまり受け流す寛容さにあるんじゃないかと。そのへんもクマムシっぽいなっていうか。
pha なるほど。
堀川 それから、ご著書やブログにも書かれてますけど、「ニートになるには才能が必要だ」と。おそらく、ほとんどの人がニートになれない原因は、やっぱり人目をすごく気にするからだと思うんです。働いていないと思われるのが嫌だっていうか。 たまに就職活動が全然うまくいかなくて、生活できなくて死ぬしかないなんて言う人がいますよね。でも、それって実は生活できないことを気に病んでるわけじゃなくて、「就職活動に失敗した」というレッテルを貼られて、それが半径10メートルぐらいの近しい人たちに見られてるという状態が、死ぬほど耐えられない感じかと。実際、本当に死んじゃう人もいるくらいですからね。でも、phaさんの場合、別に無職だろうが何だろうが、誰からどう見られようと、そんなの人それぞれでいいじゃんっていうふうに、たぶん思われてると思う。そう思える才能の基盤にあるのは、やっぱり寛容さだと思うんです。まあ、こういった共通項から、勝手に親近感を持ったりしてたんですけど。
pha 寛容さというか鈍感さかもしれませんね。
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