柏井壽さんの『京都の路地裏』が京都ガイド本大賞・リピーター賞を受賞しました。「私は京都好き」と言いたいあなたのために、本当は内緒にしておきたい(←編集者の本心!)、とっておきの名所・名店を紹介します。
京都土産、何を買うか悩む人は多いのではないでしょうか。実は、有名店の商品の多くはデパートでも買えてしまうのですが、ここではあえて、路地裏にある「ここでしか買えない」店を多数紹介します。
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「そこでしか買えない」貴重な店は細道にある
京都を旅した記念に何か土産を買おうとして、はたと困ることが多いと聞く。僕も相談を受けて、いつも悩む。
そこまで訪ねないと買えないものだからこそ、旅の土産は価値があったのだが、今や幾つものデパートに商品が置いてあったり、通販で買えたりする。東京のデパートにも支店があったりすると、途端に有り難みが薄れる。
便利さと引き換えに、失ったものは決して小さくない。何処ででも買えるとなると、土産に貰った方も、さほどの喜びを感じないだろうし、贈る側も些か気が引ける。
すべてと言うわけではないが、表通りに面した店と違って、路地の奥にある店は概ね、支店も持たず、そこでしか買えないという商いを守るところが多い。
店構えや商品に個性を際立たせているのも、細道にある店の特徴。何を買うでもなし、ただ店を訪ね、ウィンドウショッピングをしているだけでも愉しい店。予め予約をしておいて、商品を受け取りに訪れる店。迷い道もまた愉しい。近くに見どころのひとつもあれば、その愉しみは倍加する。
『野呂本店』──この店一軒でしか買えない漬物を
和菓子と並んで、京土産の人気を二分するのが京漬物。こちらもまた、百花繚乱。デパ地下や京都駅の土産物街では、何軒もの漬物屋がその売上を競い合っている。奨められて試食をしてみても、どれも大差なく、不味くはないが、飛び抜けて美味しいとも思えない。まぁ、こんなものかと思って買い求めているのが、大方の旅人の姿だろう。
そんな方に是非ともお奨めしたいのが『野呂本店』の漬物。
この店もまた、『幸神社』のすぐそばにある。偶然と言えば偶然だが、必然であるとも言える。
京都には京漬物の店がいったい何軒あるのだろうか。大袈裟に言うと、ふと見回せば、観光地には必ず一軒や二軒、漬物屋がある。それも大方が有名店。まるで蜘蛛の巣のように店舗を張り巡らせている。少しでも多くの客を引き寄せようという魂胆なのだろう。手を替え品を替え、いささか強引とさえ思えるような売り込みに辟易する向きも少なくない。試食用に刻んだ漬物を載せた盆を、道行く人々に差し出す様は、あまり褒められたものではない。
京都には京都らしい商いがある。それを如実に示しているのが『野呂本店』。寺町通の今出川を上って、出町桝形商店街の西側入口を越えた辺りにある。
〈漬もの司〉と染められた暖簾(のれん)が目印。格子戸を開けて中に入ると、店の中には芳ばしい漬物の香りが漂っている。
他の漬物店に比べれば、拍子抜けするほどに小さな店には、季節の漬物が並び、そのどれもが、みずみずしく輝いている。丁寧に漬けられただろうことが、ひと目で分かる。
一番の人気商品は〈青てっぽう〉。青紫蘇で巻いたヤマゴボウを、芯をくり抜いた胡瓜に射込んだもの。パリッとした食感もよく、さっぱりとした後口が身上。
浅漬の茄子(なす)は色も鮮やかで、京都にふさわしい漬物。割干大根や柴漬けも定評がある。せっかく京漬物を土産にするなら、何処にでもある店ではなく、この店一軒だけで商っているものを求めたい。
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次回「なぜ路地裏細道のお店は美味しいのか」は10月29日(木)に公開します。お楽しみに!
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