柏井壽さんの『京都の路地裏』が京都ガイド本大賞・リピーター賞を受賞しました。「私は京都好き」と言いたいあなたのために、本当は内緒にしておきたい(←編集者の本心!)、とっておきの名所・名店を紹介します。
古くから、京都には数々の逸話が伝わっています。おどろおどろしい話から、イイ話まで。ここで紹介する「首振り地蔵」のほかにも、路地裏歩きをドキドキさせる不思議スポットをいろいろ紹介します。
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都伝説、奇妙・奇怪な逸話の数々
路地裏には、何かしら不思議な空気が流れている。妖しい、と言ってもいい。狐か狸が姿を変えて現れて、澄ました顔して通り過ぎて行きそうな、そんな空気。
「あのな、昔ここで、おかしなことがあったんやで。それはな……」
祖母に連れられて寺参りをした帰りなどに、路地の奥を覗き込んで、そんな話をよくしてくれた。
祖母はどこまでその話を信じていたのか。今となっては知るすべもないのだが、モノノケが主役となる話や、時に教訓めいた話もあり、大抵の話を僕は信じ込んでいた。そしてその場所をひとりで通らねばならなかったときは、全速力でそこを走り抜けたものだ。
都市伝説に倣うなら、都伝説とでも呼びたくなるような奇妙、奇怪な逸話がそこかしこに残されていて、それに因む場所が今もちゃんとあるというのが、京都が京都たる所以(ゆえん)なのかもしれない。おどろおどろしい話から、ちょっとイイ話まで。路地裏に潜む不思議話をいくつか。
首振り地蔵──地蔵さまの頭をぐるりと一回転させて願掛け
ちょうど表通りと裏路地の関係によく似ている。
京都を訪れたなら、誰もが必ずお参りするのが『清水寺』。断崖にせり出すようにして建つ清水の舞台はあまりにも有名だ。京都を訪れて、一度も『清水寺』を参拝したことがない旅人など居ようはずもない。
であったとして、そのうち、どれほどの旅人が首振り地蔵に気付いただろうか。
北からなら、二寧坂(にねいざか)、産寧坂(さんねいざか)(二年坂、三年坂)と辿り、西からだと松原通りを、南からは茶碗坂、五条坂を上って来て、やっと目指す朱塗りの仁王門が見え、きっと心が逸るのだろう。一目散に石段を目指す。これを表通りに喩えるなら、その左手、北側に建つ『善光寺堂』はさしずめ裏路地に当たるだろうか。小さなお堂に目を向ける参拝客は極めて少ない。
元は地蔵菩薩を本尊とする地蔵院だったが、今は洛陽三十三所観音霊場の第十番札所として、広く観音信仰を蒐(あつ)めている。
堂内には、鎌倉時代末期作と伝わる如意輪観音坐像(にょいりんかんのんざぞう)や、本尊の地蔵菩薩立像(じぞうぼさつりゅうぞう)が安置され、『善光寺堂』の名の由来となった、善光寺如来堂の本尊、善光寺型阿弥陀如来三尊像が並んでいる。
不思議があるのは、このお堂の手前右手に建つ小さな祠。ここにおわします地蔵さま。なんと首が回るのである。
先ずは一礼。おもむろに両手で地蔵さまの頭を持ち、ぐるりと首を一回転させてから、願い事を唱えると、たちどころにその願いが叶う、と言われている。また、恋心を寄せる相手の方に首を向けて願うと、恋愛が成就するとも。
更なる俗世間的な願いは借金完済。借金で首が回らぬ、とはよく言われる話で、これだけ首が回るのだから、願いを込めれば借金で困ることが無くなる──かどうかは定かで無い。
これを始めとして〈清水寺の七不思議〉と呼ばれるものがあるが、それらは、多くの参拝客が目を向けない、堂の裏や脇道に潜んでいる。
その一例が仁王門の石段下に建つ狛犬(こまいぬ)。
通常は神社の鳥居脇にあるのが狛犬。それがなぜ、寺の山門下に? という疑問の答は、『清水寺』の奥に『地主神社』があるから。つまりこの仁王門は、寺と神社の、共通の入口になっているということ。これも又珍しいが、更なる不思議は左右の狛犬の口。
普通の狛犬は阿吽(あうん)の一対になっていて、犬は口を開いた阿形(あぎょう)と、口を閉じた吽形(うんぎょう)が向かい合い、万物の始まりと終わりを象徴すると言われている。しかしこの仁王門の前の狛犬は、どちらも口をあんぐりと開いている。つまりは阿と阿。
始まりだけで終わりがない。のではなく、釈迦の教えを大声で説くために大口を開いているのだ、というのが寺の見解。
人の背中ばかりを見て、順路に従って歩くのではなく、参道の脇にも目を遣れば、たとえ有名寺社だとしても、そこにはガイドブックには記されていない。不思議が隠れている。
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次回「『そこでしか買えない』貴重な店は細身にある & 野呂本店――この店一軒でしか買えない漬物を」は10月25日(日)に公開します。お楽しみに!
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