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結婚はつらいよ!刊行記念対談

2015.12.24 公開 ポスト

第4回 妻は、夫の秘密の扉を開けてはいけないのです。今村三菜(エッセイスト)/辛酸なめ子


証拠を記録するには、紙を使え!

今村 夫が会社で働いていた30代の頃は、そういう兆候はなかったんです、ぜんぜん。銀座とか六本木は好きでしたけど、すごいキャバ嬢をバカにしていて。それがわかったのは、元キャバ嬢の立花胡桃さんっていうコメンテーターの方。あの人が出てくると、「キャバ嬢のくせに、えらそうなことを言うな!」とか言っていたんです。それが、批判しなくなったんです、急に。

辛酸 へえ、怖いですね、それも。そういういろんな兆候が……(笑)。

今村 すっごく、わかりやすかったです。それでまあ、苦しみながらも楽しく浮気の電話を盗み聞きしていたんですけど、やっぱりその……いつも聞いているときに、頭の斜め上くらいには客観的な自分がいたんです。聞いた会話をメモって楽しむ客観的な自分が。でも、胸の中には悲しんでいる本当の自分がいて。夫が、「○○○が……」って、浮気のことを相談相手に話しているのを……

辛酸 京子さんっていう方ですか。

今村 本当は△△さんです。

 △△さんにいつも浮気のことを相談して、「○○○が、最近、態度がつれない」とか、「前はアパートで何々してくれたのにな」っていう、性行為を。まあ、「なめてくれたのにな」っていうことを言ったんです。

辛酸 クリントンがルインスキーさんにやられた……。

今村 それを聞いたときに、客観的な自分と悲しんでいる自分がガチーン! と、火の玉みたいに、ガーンってひとつになっちゃった。

辛酸 すごいですね。

今村 客観性を失ってしまいまして。

辛酸 それで、部屋に怒鳴り込まれて、携帯を折ったという。

今村 怒鳴りはしなかったですが、いきなり扉をぶち破って入っていったんです。夫は携帯で△△さんに相談していたんですけど、私がその携帯をピーンって取って、「△△さん、いい加減にしてください」って。そうしたら、夫が、ひぇーってなりまして。「なんで(電話の相手の名前を)知ってるんだ」って。本当にね、携帯も折りましたし、パソコンも、膝でね。

辛酸 すごいですね、パソコンが折れるって、ぜんぜん知らなかった。

今村 パソコン、はい。ちょうつがいのところを真ん中にして、端と端を持つんですよ。そして、下から膝蹴り。すると、パソコンがあり得ない形になりまして、断末魔のうなり声っていうか、「ジーッ、ジーッ」て音がして、緑の電気がパカッ、パカッとなって、それがぷつっと消えて、死んだ。そのときの夫の脱力加減っていうのが、「はあーっ」ていう感じでしたね。家で株の売買の仕事をしていたんですけど、それに使っているパソコンでしたから。

辛酸 それ、仕事にも使っていたパソコンだったんですか。

今村 はい、モニターが10枚くらいあって、そのパソコンが一番主でした。メインコンピュータを膝蹴り。そのときに本当に真剣に思ったんですけど、やはり大事なことは、コンピュータとかiPhoneではなく、鉛筆で紙にメモるべきだなあと、そう思いました。

辛酸 そうですね、それってバックアップを取れないですものね。

 その記録もメモで書かれていたわけですものね。

今村 はい、なんか、私の勝ちみたいな(笑)。紙の勝利でした。

辛酸 紙の勝利ですよ、ペンと紙の勝利(笑)。



メガネ、携帯、パソコン……折って一番気持ちのよかったもの

今村 その後、夫を出て行かせたんですけど、私、カード類とかを全部、自分のポケットに入れて、何も持たせずに行かせました。あと、夫はど近眼なんですよ。視力が0.0いくつとかで、メガネを外すと石けんも探せないような状況で。浮気を始めたときに、メガネのお洒落が始まったんですね。音楽制作会社社長のH山ちゃんアドバイスで買ったレイバンのメガネとか、トム・フォードのメガネとかも、いっぱい机に並べていたんです。そのメガネを取って、順々に割っていったときの気持ちよさったら……。本当にきれいな放物線を描いてね、飛んでいくんです。

辛酸 レンズがですか、ああ……。

今村「これは3万円」「これは6万円」って思いながら……。最後に「このイワキは10万円……!」、バキン、バキンと。

 でもやっぱり一番気持ちいいのは携帯です。

辛酸 携帯も、iPhoneかなにかなんですか? ガラケー?

今村 ガラケーだったので。

辛酸 ガラケーなら折りやすそうですね。

今村 はい。すっごく気持ちよかった。話にはよく聞いていたんですけど、携帯を折るのって、気持ちよかったです(笑)。

辛酸 じゃ、それで、もうすべて──いろんな念が、それで全部、昇華されて。

今村 はい、昇華されて、すっごく気持ちよくなりました。それをやったとき。あそこまでやったら、何も残らないです。私みたいに、普段、怒らない人間が怒るとそうなのかもしれません。本当にこう、夫が後ずさりしたのがわかって……でかい夫がです。

辛酸 180センチとか。

今村 ええ。太ると90キロとかになっちゃう。その夫が、私の「出て行け、この野郎!」っていうので、本気で後ずさりをしましたから。気みたいなものが、そのとき、どっと出たんじゃないかと思いました。

辛酸 見えないパワーみたいな。

 

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今村三菜 エッセイスト

1966年静岡市生まれ。エッセイスト。仏文学者・詩人でもある祖父・平野威馬雄を筆頭に、平野レミ、和田誠など芸術方面にたずさわる親戚多数。著書に『お嬢さんはつらいよ!』『結婚はつらいよ!』(ともに幻冬舎)がある。

辛酸なめ子

近著に「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「無心セラピー」(双葉社)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)、「女子校礼讃」「辛酸なめ子の独断! 流行大全」(中公新書ラクレ)など。

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