「おなかが弱いのは体質だから…」「こんなことでわざわざ病院に行くのは恥ずかしい」など、おなかの不調に慣れてしまい放置している、"おなかの弱い”あなた。
胃がん・大腸がんなど大きい病気を見過ごしてしまうかもしれないというリスクもそうですが、胃腸にトラブルがある・ないでは日々の生活の質も雲泥の差。きちんと治療をすることが大事です。
胃がん発生に重要な働きをしている特定の遺伝子がピロリ菌感染胃粘膜に発現していることを世界で初めて発表し、毎日全国からの患者さんを診察している消化器内科医、
江田証さんによる著書『専門医が教える おなかの弱い人の胃腸トラブル』より、おなかの不調の原因とその治療法を紹介します。
<ピロリ菌は全身に影響をおよぼす>
おなかが弱い人は、一度は医療機関にかかり、ピロリ菌の有無を調べてください。ピロリ菌は、胃炎や胃がんの原因となる菌でおなかに棲んでいます。
正式名は「ヘリコバクター・ピロリ菌」。
井戸水などにいる風土菌で、衛生状況のわるい一昔前の日本にはどこにでもいました。いまの中高年の多くはピロリ菌を持っています。
時代とともに清潔な世の中になり、自然界で感染する機会は減りましたが、若い世代も安心はできません。なぜならピロリ菌は、人から人へと唾液感染するのです。
親から子へ、食べものを口移しすることで感染します。団塊ジュニアや、その子どもの世代も、唾液感染している危険があります。
日本では、年間12万人近い人が胃がんになります。一方、アメリカでは胃がんは稀な病気です。なんと全世界の胃がん患者の6割は日本、中国、韓国で占められています。これはピロリ菌の種類が東アジアと欧米で異なるためです。
強毒性の東アジア型に比べ、欧米型は弱毒性で胃がんを引き起こしにくいのです。
<ピロリ菌感染があると認知症や動脈硬化、骨粗鬆症になりやすい>
ピロリ菌がいると胃炎や胃がんを起こすだけではありません。
認知症、貧血、動脈硬化、骨粗鬆症、悪性リンパ種、慢性じんましんなど全身の臓器に影響を与えることが分かってきました。そればかりか、ビタミンCやビタミンB12、葉酸など大切な栄養素まで吸収が悪くなるのです。せっかくサプリメントを飲んでも、吸収が悪くなります。ビタミンB12や葉酸の吸収が悪くなると、ホモシステインという老化物質が増え、動脈硬化を生じることがわかっています。
脳神経系の医学誌「Journal of Neurology」誌は、アルツハイマー型認知症患者にはピロリ菌感染率が有意に高いこと、ピロリ菌の除菌がアルツハイマー型認知症患者の認知機能改善にプラスの効果があることを報告しています。
<ピロリ菌が全身に影響を与える理由>
その原因の一端が最近、東大・京大の研究チームによって明らかになりました。
ピロリ菌が産生する毒素、CagA(キャグエー)は、胃の細胞から分泌されて全身の血管の中を循環することがわかったのです。
「健康長寿のためにはまず胃をととのえることが第一歩なのです(江田証医師)」。
次回「リア充男子に増えているおなかのトラブル。薬に頼らない治療法とは」は
7月17日(日)公開予定です。