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男という名の絶望

2016.08.09 公開 ポスト

和田秀樹×奥田祥子対談[後編]

「自己責任」という言葉をもう捨てよう奥田祥子

「中国・北朝鮮が攻めてきたら」と心配する前に考えることがある

和田 奥田さんの本を読んだ男たちは、どう思うんでしょうね。「さすがに自分はこんなに絶望していない」と思うのか、「明日はわが身」と思うのか。

奥田 それは私も聞いてみたいですね。

和田 たとえば心の病に関しても、これだけうつ病が増えて、自殺者も多いのに、「自分だけはうつ病にならない」と能天気に信じている人が世の中には多いんですよ。みんな、「がんになるのではないか」という心配はするのに、心のほうはいつまでも健康でいられると思い込んでいるんですね。だから「うつは甘えだ」などとバカにして、病気に対する理解を深めようとしない。自分が病気になって初めて、うつで仕事を休んだ人を攻撃したことを後悔するんです。

奥田 だとすると、私の本を読んでも「おれはこうはならない」と思う人が多いかもしれませんね。
 

和田 離婚や生活保護などもそうです。いまの日本では、そうなる確率が1~2割あって、誰にとっても「明日はわが身」のはずでしょう。ところが、多くの人は離婚も生活保護も他人事だと思っている。
 その一方で、きわめて起こる確率の低い原発事故や戦争にはものすごくナーバスになるんですよ。「アメリカに見放されたら中国や北朝鮮が攻めてくる」などとビクビクして、そのために年間5兆円も使っているわけです。あまり合理的な考え方ではないと思いますよ。それを心配するなら、奥田さんの本も他人事と思わずに、いつ自分に降りかかるかわからない問題として読むべきでしょう。

奥田 そういっていただくのはありがたいことです。私が取材している男の人たちは、決して特別な人々ではありませんから。実際、その予備軍のような読者もたくさんいらっしゃいます。「身につまされた」という感想を書いて送ってくださる方が何人もいらっしゃいました。封書で分厚いお手紙をいただいたこともあります。手書きで長い手紙をいただくと、ネットに書かれた感想よりもズシッと来ますよね。

和田 そういう読者が増えることで、社会全体が男性の「病」にきちんと目を向けるようになるといいですね。まずは現実を正しく把握することが大事だと思います。

奥田祥子『男という名の絶望 病としての夫・父・息子』

現代社会において男性を取り巻く環境は凄まじい勢いで変化し、男たちを追い込んでいる。理不尽なリストラ、妻の不貞、実母の介護、DV被害……彼らはこれらの問題に直面して葛藤し、「男であること」に呪縛され、孤独に苦しんでいる。そのつらさや脅えは〈病〉と呼んでも過言ではない。「男であること」とはいったいなんなのか? 市井の人々を追跡取材するジャーナリストが、絶望の淵に立たされた男たちの現状を考察し、〈病〉を克服するための処方箋を提案する最新ルポ。

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奥田祥子

ジャーナリスト。京都市生まれ。米・ニューヨーク大学文理大学院修士課程修了後、新聞社入社。男女の生き方や医療・福祉、家族、労働問題などをテーマに、市井の人々への取材を続けている。所属部署のリストラを機に個人活動を始めた。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程所定単位取得退学。「Media Influence Over the Transformation of Stigma Toward Depression in Japan」「Pharmaceuticalization and Biomedicalization: An Examination of Problems Relating to Depression in Japan」(米学術誌『Sociology Study』に掲載)ほか、学術論文も発表している。著書に『男性漂流―男たちは何におびえているか』(講談社)、『男はつらいらしい』(新潮社)、共訳書に『ジャーナリズム用語事典』(国書刊行会)などがある。

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