「中国・北朝鮮が攻めてきたら」と心配する前に考えることがある
和田 奥田さんの本を読んだ男たちは、どう思うんでしょうね。「さすがに自分はこんなに絶望していない」と思うのか、「明日はわが身」と思うのか。
奥田 それは私も聞いてみたいですね。
和田 たとえば心の病に関しても、これだけうつ病が増えて、自殺者も多いのに、「自分だけはうつ病にならない」と能天気に信じている人が世の中には多いんですよ。みんな、「がんになるのではないか」という心配はするのに、心のほうはいつまでも健康でいられると思い込んでいるんですね。だから「うつは甘えだ」などとバカにして、病気に対する理解を深めようとしない。自分が病気になって初めて、うつで仕事を休んだ人を攻撃したことを後悔するんです。
奥田 だとすると、私の本を読んでも「おれはこうはならない」と思う人が多いかもしれませんね。
和田 離婚や生活保護などもそうです。いまの日本では、そうなる確率が1~2割あって、誰にとっても「明日はわが身」のはずでしょう。ところが、多くの人は離婚も生活保護も他人事だと思っている。
その一方で、きわめて起こる確率の低い原発事故や戦争にはものすごくナーバスになるんですよ。「アメリカに見放されたら中国や北朝鮮が攻めてくる」などとビクビクして、そのために年間5兆円も使っているわけです。あまり合理的な考え方ではないと思いますよ。それを心配するなら、奥田さんの本も他人事と思わずに、いつ自分に降りかかるかわからない問題として読むべきでしょう。
奥田 そういっていただくのはありがたいことです。私が取材している男の人たちは、決して特別な人々ではありませんから。実際、その予備軍のような読者もたくさんいらっしゃいます。「身につまされた」という感想を書いて送ってくださる方が何人もいらっしゃいました。封書で分厚いお手紙をいただいたこともあります。手書きで長い手紙をいただくと、ネットに書かれた感想よりもズシッと来ますよね。
和田 そういう読者が増えることで、社会全体が男性の「病」にきちんと目を向けるようになるといいですね。まずは現実を正しく把握することが大事だと思います。