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リオパラ2016ブラインドサッカー解説者日記

2016.09.17 公開 ポスト

第3回

攻め合いと守り合い、好対照だった準決勝岡田仁志

 

夜明けから間もないスカパー東京メディアセンター。

■9月16日(金)準決勝

 前夜は21時に就寝したものの、試合を見るのが楽しみすぎてなかなか寝付けず、半覚半睡のまま4時起床。前日に初めてタクシーの予約アプリを使い、やたら手続きが簡単なので本当に時間どおり来るのかどうか心配だったのだが、本当に来るのだから便利な世の中だ。女性運転手さんがブラインドサッカーを知っていたので嬉しかった。認知度は着実に高まっている。ただし「ゴールの後ろで見える人が手を叩くんですよね?」と若干オニゴッコ的なイメージを持っていたので、「たまに手も叩きますけど、おもに声でガイドするんですよ」と知識を微修正。理解を深めてもらうには、小さな間違いも見逃さない地道な努力が大切だ。

 5時30分に現場入り。打ち合わせ後、実況担当の喜谷知純さんの指導で「アエイウエオアオ、カケキクケコカコ」という発声練習にトライしたものの、言える言えない以前に順番が覚えられないので諦めた。脳が覚醒しないまま、6時30分から準決勝第1試合ブラジル×中国の収録スタート(4時キックオフの試合を後追いで収録するので、それまで必死に情報遮断していたことは言うまでもない)。

 試合は、前半7分という早い時間帯に風雲急を告げる事件が起きた。ノースピーキング(守備側が「ボイ」を発声しない反則)でボールを奪いに行った中国9番ワン・ゾウビンの前歯が、ブラジルの10番リカルジーニョの額を直撃。出血したリカルジーニョが担架で運び出され、ブラジルはいきなり大エース不在での戦いを強いられたのだ。タレント豊富なブラジルといえども、中国相手にこれはキツい。

 その7分後、ブラジルらしくないミスが生まれたのは、精神的な動揺が尾を引いていたせいかもしれない。ゴールから約9メートル地点での中国のフリーキック。4人を並べたブラジルの壁の右に、中国はスクリーン役の4番ウェイ・ジャンセンを立てた。彼が相手DFをブロックし、シュートコースを作る作戦だ。中国はメキシコ戦で、これとちょうど左右対称な形から11番ワン・ヤフェンがゴールを決めている。当然、ここでもウェイのいるサイドを狙ってくると思われた。

 ところがワン・ヤフェンが右方向にドリブルを始めると、壁の右端にいた3番カッシオが逆方向にダッシュ。ボールを持っていない9番ワン・ゾウビンのほうに向かってしまった。壁に残った3人も一歩も動かず、ワン・ヤフェンは完全にフリー。左足で放った鋭いシュートが、ゴール奥のポストを叩いて跳ね返った。中国先制。

 ワン・ヤフェンは右足のシュートが得意なので、(ブラジルから見て)左方向に行くと決めつけていたのかもしれないが、ブラジルにしてはあまりにも粗雑な守備だったと言わざるを得ない。初戦のモロッコ戦に続いて、相手に先制を許す苦しい展開。ひとつの大会でブラジルが二度もビハインドを背負うのを、少なくとも私は見たことがない。

 しかし、この窮地を7番ジェフィーニョが救った。彼はいつも、リカルジーニョがピッチにいないときのほうが、自由に伸び伸びとドリブルを披露する傾向がある。失点から6分後、その個人技が炸裂した。中国陣内の右サイドフェンス沿いから中央にドリブルで侵入し、滑らかなS字カーブを描きながら4人の守備網を切り裂く。右45度から体を倒しながら放ったシュートは、当たりこそやや弱かったものの、ファーサイドのポストを叩いてゴールに飛び込んだ。同点。

 前半20分、治療を終えたリカルジーニョが頭部に防具をつけた姿でピッチに戻ると、ブラジルは完全に息を吹き返した。前半は同点のまま終えたが、後半5分、再びジェフィーニョがビッグチャンスを作る。自陣でルーズボールを拾うと、前がかりになって縦に間延びした中国の4人を嘲笑うかのようにスルスルとドリブルで抜き去り、こんどはシュートをジャストミート。ゴール左上に強烈に突き刺した。鮮やかすぎる逆転劇である。

 その後は中国も果敢に攻めたが、ドリブルのスピードやコースに慣れたブラジル守備陣の前に、なかなか決定機を作れない。右足を故障したワン・ヤフェンが後半7分に退いたのも痛かった。そのままブラジル2-1中国でタイムアップ。華やかなドリブル合戦を制したホスト国が、4大会連続の決勝進出を決めた。一昨年の世界選手権では、残念ながらブラジルと中国の凄まじい準決勝を放送できなかったので、今回この試合をスカパー!でお届けできたのは嬉しい。ブラインドサッカーでしか味わえない驚きや興奮を、存分に感じてもらえたのではないかと思う。

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リオパラ2016ブラインドサッカー解説者日記

激戦が繰り広げられるリオパラリンピック2016・ブラインドサッカー。スカパー!の解説者を務める岡田仁志さんによる観戦記。時差12時間をものともせず、ブラインドサッカーの魅力をお伝えします。

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岡田仁志

昭和39(1964)年北海道旭川市生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。3年間の出版社勤務を経て、フリーライターに。深川峻太郎の筆名でもコラムやエッセイ等を執筆。著書に『闇の中の翼たち――ブラインドサッカー日本代表の苦闘』(幻冬舎)。

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