第1試合終了後、控え室で30分ほど休憩。アイマスクを着用したのは、熱戦に刺激されて自分でもプレーしたくなったから……では、もちろん、ない。起床した時点ですでに赤かった目がかすんできたので、蒸気でホットアイマスク(ステマじゃないよ)。収録中は至近距離からモニターを力いっぱい凝視しているので、52歳の目にはけっこうな負担だ。
9時から、準決勝第2試合アルゼンチン×イランの収録開始。第1試合の攻め合いからは一転して守り合いになることは想像できたが、グループリーグ無失点の両チームの守備は思った以上に堅かった。
攻撃のチャンスはアルゼンチンのほうが圧倒的に多いが、イランの4枚ディフェンスは集中力が高く、自由にシュートを撃たせない。アルゼンチンの得点源であるコーナーキックやフリーキックなどのセットプレーも、数は多いがほとんど決定機にならなかった。ときおり枠をとらえるシュートを放つものの、これはGKショジャエイヤンがしっかりと防ぐ。イランのファウル累積で得た第2PKも、4番パディージャが決められない。イランはそれ以降はファウルを重ねず、もう第2PKを与えなかった。このあたりが、彼らのしたたかなところだろう。
アルゼンチンにとって最大のチャンスは、前半20分。左コーナーキックから、大ベテランの5番ベロが、パディージャの巧みなスクリーンプレーで生まれたスペースをドリブルで突進し、左45度からフリーで豪快にシュート。しかしこれもショジャエイヤンの正面をつき、得点にはいたらない。その2分後には、ルーズボールを追った2番デルドがGKエリア(2×5メートル)の手前で大きく右足を振り、手を出せないショジャエイヤンに冷や汗をかかせたものの、当たり損ないのシュートはゴールマウスをとらえられなかった。
イランは最後まで粘り強い守備を続け、前後半を終えて0-0。準決勝は延長戦を行わず、すぐにPK戦となる。それを見越して、アルゼンチンは後半終了前にGKを1番レンシナから12番ムレクに交代。2日前に中国と順位決定のためのPK戦をやり、2人が厳しいコースに決めたアルゼンチンがやや有利かと思われたが、こんどの相手は鉄壁を誇るショジャエイヤンだ。
そのプレッシャーもあったのか、アルゼンチンは1人目の15番エスピニージョがクロスバーのはるか上に外すミスキック。イランは9番ラヒミガスルが成功。2人目はベロと11番シャホセイニがともに成功した。アルゼンチン1-2イランで、最後の3人目。先攻のアルゼンチンは11番ベリスを送り出す。
そのキックを待ち受けるショジャエイヤンは、うっすらと笑みを浮かべたように見えた。PK戦であんな表情を見せるGKを私は見たことがない。もちろんベリスにその表情は見えないが、目に見えぬ空気が伝わったのだろうか。鋭いトウキックは、吸い込まれるようにショジャエイヤンの正面に飛んだ。
イラン、二度目のパラリンピック出場で初の決勝進出。前々日のブラジル戦とこの日のアルゼンチン戦、南米の2強との連戦を無失点で逃げきった守備の集中力と、執念深いサバイバル戦術、そしてハートの強さはじつに見上げたものだ。あらためて、日本チームはアジア選手権ですごい相手としのぎを削ったのだと思い知らされた。
これで、決勝はブラジル×イラン、3位決定戦はアルゼンチン×中国。いずれも、0-0で引き分けたグループリーグ最終節の再戦となった。中国がアルゼンチンを下してイランとともに表彰台に上がれば、アジアのブラインドサッカーにとって画期的な実績となるだろう。
決勝の見どころは、ブラジル攻撃陣がイラン守備陣を崩してショジャエイヤンからゴールを奪えるかどうか。これに尽きる。イランの密集ディフェンスを引き剥がすには、アルゼンチンはドリブルのスピードが足りなかった。ブラジルも、故障明けのリカルジーニョが本調子ではないため、単独のドリブルで突破できるとはかぎらない。
そこで私が注目するのは、大会序盤からブラジルが再三にわたってトライしてきた「スルーパス」だ。密集の向こうにいるフリーの味方に正確なパスを通し、ワンタッチもしくはダイレクトでシュートする。見えないサッカーでは超高難度のプレーだが、その精度は徐々に高まっており、中国戦の終盤にはジェフィーニョと8番ノナートがじつに惜しい決定機を作り出していた。大会の最後に、あれが決まるところを私は見たい。それは、世界のブラインドサッカーにとって大きな画期になることだろう。
■今後の放送日程
9月18日 13:00~ 決勝ブラジル×イラン
※放送時間は変更の可能性があります。スカパー!の公式サイトでご確認ください。
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