自分のことだけでは、人生はつまらない
エッセイの中でも、よしもとさんは逃げることも決して否定しない。逃げるのも逃げないのもその人の選択であり、どちらがいいというわけではない。自分の基準で人を判断せず、人は人だと認める姿勢。そこにしなやかさの秘密がありそうだと勢い込んで、どのように身につけたのかと尋ねてみると、「生まれつき」という答えが返ってきた。
「生まれつきとしか言いようがないですね。ほんと小さい時から、なんでみんな他の人と比べてばっかりいるんだろうと思ってましたからね。比べたって、しょうがないじゃんって思っていて。色白でいいわね、とかもちろんそういう気持ちは分かるんだけど、だからといって、憎いとは思わない(笑)。そういう気持ちだけは未だに分からないですね。かといって、自分に自信があるわけではないんですよ。そういうのとは全然違っていて。ただ、違うんだし、しょうがないじゃんって。
私はなるべく心のシャッターを自分からは下ろさずに、先入観なくいろんなことを捉えたいと思っていて、その方がいろんなものが見られるような気がします。でも、早く判断を下すっていうのも、私とはやり方が違うってだけで、ひとつのやり方だなとも思うんです。早い判断をすることで、シャープに生きている。私は判断がゆっくりでぼーっと見ちゃうタイプなんで、それは良し悪しだなと。そういう違いを感じると、感心しちゃうんですよね。違うからいいんだなあって。みんなが同じだったらしょうがないですもんね」
20代の人間にとって未来は可能性であり、得るばかりで何かを失うことなんてほとんど考えられない。しかし、30代、40代と年齢を重ねていくと、親の衰えを感じることも多くなり、いつか訪れるであろう喪失の予感が胸を過るようになる。得ることばかり考えてきた人間にとって、失うことは恐怖だ。しかし、よしもとさんは逆に与えることを考えるべきだとアドバイスを送る。
「今、人の寿命は平均的に80歳ぐらいでしょうか。だとしたら、半分を超えた40代以降は人に与えていくべきなんじゃないかなと思いますね。ずーっと、自分のことだけだったら、人生つまらない。人類として人生経験を下の世代に渡していくことで、失われずに、引き継がれていくものというのはあるんじゃないかと思います。
まずは長いスパンの人生設計っていうのを一応立ててみるのがいいんじゃないかという気がします。それは、結婚するしないとか、そういうことじゃなくて、考え方の面で。そういう風に自覚していれば、40歳まではとにかく自分のためにやろうとか、40歳からは得たものを年下の人に分けてあげた方がいいんじゃないのかとか、考えることができる。人生は有限だってことを知ることが何より大事なんじゃないかと思います」(了)
(取材・文:小山田桐子 写真:小嶋淑子)