「有史以来、すべてのテクノロジーはエクスポネンシャル(指数関数的)に進化してきた」と、天才未来学者・カーツワイル。
そして、アメリカの著名な起業家であるピーター・ディアマンディスは、すべてのエクスポネンシャルな進化は、同じ6つのプロセスをたどると言います。その衝撃のプロセス「6D」とは?
News Picks編集長・佐々木紀彦さんも「AI入門の決定版だ」とお薦めの『シンギュラリティ・ビジネス――AI時代に勝ち残る企業と人の条件』著者の齋藤和紀さんが、解説します。
* * *
コンピュータ以前から始まっていた「デジタル化」
前に述べたとおり、地球の生命も、人類も、人類のテクノロジーも、すべてエクスポネンシャル(指数関数的)に進化を遂げてきました。カーツワイルの予測を「夢物語」のように感じた人もいるでしょうが、じつは直線的な進化のほうが人間の抱きやすい「幻想」なのであって、エクスポネンシャルな進化のほうが「現実」なのです。
そこで、エクスポネンシャルな進化がどのようなものかを理解するための「6D」と
いうフレームワークを紹介することにしましょう。これは、アメリカの著名な起業家であるピーター・ディアマンディスが提唱したものです。
ディアマンディスは、物事がエクスポネンシャルに成長するとき、その多くのケース
で「D」の頭文字を持つ次の6つの事象が連鎖反応的に起こるといいます。
1 デジタル化(Digitalization)
2 潜行(Deception)
3 破壊(Disruption)
4 非収益化(Demonetization)
5 非物質化(Dematerialization)
6 大衆化(Democratization)
1番目の「デジタル化」から順に説明していきましょう。デジタルと聞くと即座にコンピュータを利用した技術を思い浮かべますが、必ずしもそれだけではありません。連続した量のことを指す「アナログ」の対立概念が「デジタル」ですから、量を離散的に数えることができるようになるのが「デジタル化」の本質です。したがって、すべてを「0」と「1」で計算するコンピュータの二進法だけが「デジタル」というわけではありません。そろばんを使う計算も、アナログではなくデジタルです。だとすれば、コンピュータ時代を迎える前から、デジタル化がテクノロジー進化の第一歩になってきたことは容易に想像がつきます。
デジタル化によってイノベーションがスタートした例としてわかりやすいのは、「写真」でしょう。フィルムで撮影して現像し、紙焼きで保存されていた写真は、あるときからデジタルデータとなりました。
しかし、写真がデジタル化した当初、それが主流になると考えた人はあまり多くはなかったでしょう。市場に出回り始めたデジカメを見て、「こんなものでは本格的な写真は撮れない」「オモチャみたいなものだ」と思い、むしろアナログ写真のすばらしさをあらためて認識した人たちも大勢いたはずです。そもそもデジタルカメラを最初に開発したコダック社の経営陣が、それをオモチャとしか見ていませんでした。
デジタル化が起きた段階では、あまり大きなインパクトが生じない――これはエクスポネンシャルな進化の大きな特徴といえます。
次のページ:最初は誰もが失望し、裏切られる
シンギュラリティ・ビジネス
2020年代、AIは人間の知性を超え、2045年には、科学技術の進化の速度が無限大になる「シンギュラリティ」が到来する。そのとき、何が起きるのか? ビジネスのありかた、私たちの働き方はどう変わるのか?