水不足も地球温暖化も食糧不足もなくなる
もし社会のエネルギーをすべて太陽から調達できるようになれば、その波及効果は計り知れないほど大きなものになります。まず、化石燃料を使う必要がなくなりますから、二酸化炭素の排出による地球温暖化問題がただちに解決するのは間違いありません。
また、水不足の問題も解決します。たとえば米国のカリフォルニアは降雨量が少ないためしばしば水不足になるのですが、シンギュラリタリアンの多いシリコンバレーあたりでは、「そんなに心配することか?」と思っている人が大勢いるでしょう。「だって、すぐ隣に太平洋があるじゃないか」というわけです。
海水の淡水化プラントは、現状では相当なコストがかかりますが、電力がタダで使えるとなれば、いくらでも水を安価で供給できるようになるでしょう。カリフォルニアにかぎらず、広大な海に恵まれた地球人は水不足の不安から解放されるのです。
さらに、電力コストがゼロになり、水がいくらでも手に入るようになると、食糧問題も解決します。食用の植物を、工場でどんどん生産できるようになるからです。
そのときは、用済みになると思われた化石燃料が別の存在意義を持つことになるかもしれません。というのも、植物の生育には二酸化炭素が不可欠。これは齊藤元章氏が著書『エクサスケールの衝撃』の中でも指摘されていることですが、現在は温室効果ガスとして問題視されている二酸化炭素が植物工場に必須の「資源」となり、その奪い合いになる可能性があるのです。
997年の地球温暖化防止京都会議では、温室効果ガスの「排出権」を取引する制度が定められました。二酸化炭素に関しては、それが「使用権」をめぐる争いに逆転するかもしれません。エネルギー源としては不要になった化石燃料を使って、植物工場のために二酸化炭素を取り出すようになることもあり得ます。
いずれにしろ、太陽光発電の技術はこれから10~20年のあいだに飛躍的に進化し、人類の重大問題をいくつも解決してくれるでしょう。同時に、その破壊的な成長は多くのものを非収益化してしまうはずです。
ですから長期的な社会政策も、それを前提に考えていくべきです。もちろん、目の前の生活を維持・向上させるには現時点で利用可能なエネルギーの運用を考えなければいけませんが、30年後のエネルギー政策に現在の常識は通用しません。まだ「潜行」の段階にある太陽光エネルギーのことを無視して将来のエネルギーミックスなどを議論しても、あまり実りのある話にはならないだろうと思います。
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次回は6月27日(火)に掲載予定です。
詳しくは『シンギュラリティ・ビジネス――AI時代に勝ち残る企業と人の条件』もお読みいただけると幸いです。
シンギュラリティ・ビジネス
2020年代、AIは人間の知性を超え、2045年には、科学技術の進化の速度が無限大になる「シンギュラリティ」が到来する。そのとき、何が起きるのか? ビジネスのありかた、私たちの働き方はどう変わるのか?