ここで変わらなければトヨタも生き残れない
ドイツの「インダストリー4.0」が目指すのは工場のネットワーク化ですが、その中心となる技術は、「IoT」です。物と物がインターネットでつながり、情報交換しながらお互いを制御し合う。現時点でインターネットにつながっているデバイスは20億~30億程度ですが、ある試算によると、2020年までにそれが500億に達します。先進国でひとりの人間が所有する「物」の数はおよそ1000個といわれているので、ほぼそのすべてがインターネットにつながる時代が来るわけです。
その先駆けとして全面的にIoT化するのが、工場です。これまでも工場ではさまざまなロボットが稼働していましたが、それぞれに対する指令は人間が個別に出していました。しかしIoTでつながると、ロボット同士が連携して、自動的に最適な作業を選択できます。
その中でも「革命」の主役となるロボットは、やはり3Dプリンターでしょう。ピーター・ディアマンディスが「今後5年間ですべての製造業が3Dプリンターに置き換わるだろう」とまで予測するのは、それが高い汎用性を持つロボットだからです。
すでに米国では自動車のタイヤ以外のすべてを3Dプリンターでつくる試みが成功しました。中国では、ビルや住宅の部屋を3Dプリンターでつくり、それを組み上げる実験が行われています。いずれドローンの性能が向上して、重たい物を持ち上げて組み立てられるようになれば、人間も重機もなしで高層ビルを建築することが可能になります。
また、物をつくってから遠隔地に運ぶ必要もなくなります。現地に3Dプリンターがあれば、送るのは素材だけでいい。たとえばISS(国際宇宙ステーション)に3Dプリンターを打ち上げて設置してしまえば、あとは素材を搬送するだけで、必要な物がそこでつくれるのです。
もっと身近なところでも、3Dプリンターが活躍するようになります。おそらく数年後には、コンビニエンスストアに3Dプリンターが置かれるようになるのではないでしょうか。すると私たちは、製品のデータさえあれば、そこで物を「プリントアウト」できるようになります。メーカーは、注文された製品のデータだけ販売すればいいのです。これはつまり、メーカーが製品の「在庫」を抱える必要がなくなるということにほかなりません。これはメーカーにとっては、大きなメリットです。
しかし一方で、「いくらでもコピー商品がつくれる」という脅威も生じます。データにコピーガードをかけることはできるでしょうが、いずれ「3Dスキャナー」が普及すれば、そのデータ自体を現物から再現することが可能になる。まさに製品が「デジタル化」された後に、その「非収益化」が起きてしまうわけです。
いずれにしろ、この第4次産業革命で最大の激震に見舞われるのは製造業です。たとえば任天堂という企業は、かつてはゲーム機というハードウェアで大きな収益を得ていましたが、ある時期からその戦略が成り立たなくなり、業態をソフトウェア中心に切り替えることが求められました。
それと同じようなことが、今後はあらゆる製造業で起こります。日本国内であれば、とくにトヨタ、日産、ホンダなどの自動車メーカーは大きく変わらなければいけないと思います。工場のIoT化や3Dプリンターの時代に対応できなければ、メーカーとして生き残ることはできないのです。
シンギュラリティ・ビジネス
2020年代、AIは人間の知性を超え、2045年には、科学技術の進化の速度が無限大になる「シンギュラリティ」が到来する。そのとき、何が起きるのか? ビジネスのありかた、私たちの働き方はどう変わるのか?