これからの国力を決めるのはスパコン。しかし日本は……
第4次産業革命は始まったばかりですが、今後はこの世界規模の大変革が第5次、第6次……と立て続けに起こると予想されます。いまのうちに基本的なマインドセットを変えなければ、国も、企業も、個人も、時代の変化に置き去りにされてしまいます。
国家レベルの事業について考えると、これからの革命できわめて重要な意義を持つスーパーコンピュータの研究・開発がひとつの鍵になることはいうまでもありません。まさにエクスポネンシャルな進化を続けている分野ですから、いったん外国に性能の点で引き離されると、二度と追いつけないぐらいの差が生じてしまう可能性があります。AIをはじめとするテクノロジー革命の根底にあるのがスーパーコンピュータですから、その性能の差はそのまま国力の差になって跳ね返ってきます。
日本はかつて「京」というスーパーコンピュータが世界1位の性能を誇っていましたが、いまはその地位にはありません。最近は中国のスーパーコンピュータが圧倒的な速さを見せるようになりました。計算速度では8連覇、第2位も中国です。日本勢は世界6位まで順位を下げました(2016年のランキング。「Oakforest-PACS」が初登場6位、「京」は7位だった)。もはや「2位じゃダメなんですか?」などと、呑気なことをいっている場合ではありません。
ただし、スーパーコンピュータの性能を高めるには、闇雲にパワーを上げるだけでなく、効率性の追求も重要です。巨大なコンピュータは電力を含めて莫大(ばくだい)なコストがかかるので、効率の悪いものは実用的ではありません。日本はその効率性向上の研究で優れています。
スーパーコンピュータの世界ランキングは、大きく分けてふたつ。中国が上位を独占しているのは処理速度を競う「Top500」ですが、それ以外に、消費電力あたりの性能を競う「Green500」というランキングがあります。こちらでは、齊藤元章氏の率いるペジーコンピューティングの開発したスパコンが、2015年に世界1~3位を独占しました。つまり、効率性では世界ナンバーワンということです。
効率性の向上は、より処理速度の速いスーパーコンピュータをつくる手段として重要ですが、それだけではありません。巨大なコンピュータはたくさんつくれないので、いまの「京」も多くの研究機関が共同利用しています。申請書を提出して許可を得てもすぐに使えるわけではありませんし、順番が回ってきても使用時間は分単位。ですが、効率化が進めば、「京」レベルのスパコンが狭い研究室に設置できるようになり、みんなが自由に好きなだけ使えるようになるでしょう。たとえ処理速度では世界一にならなくても、利用範囲が広がればテクノロジー全体の進化に大きく寄与できるはずです。
いずれにしろ、スパコンの開発は国力そのものを左右する問題なので、国として明確な戦略を持つべきです。中国やアメリカに引き離されることがないよう、その開発に関わる企業や研究者をサポートしていく必要があると思います。
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次回は7月4日(火)に掲載予定です。
さらに詳しくは、『シンギュラリティ・ビジネス――AI時代に勝ち残る企業と人の条件』をお読みいただけると幸いです。
シンギュラリティ・ビジネス
2020年代、AIは人間の知性を超え、2045年には、科学技術の進化の速度が無限大になる「シンギュラリティ」が到来する。そのとき、何が起きるのか? ビジネスのありかた、私たちの働き方はどう変わるのか?