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東芝の悲劇

2017.10.26 公開 ポスト

東芝崩壊の戦犯たち――佐々木則夫・無謀の人大鹿靖明

 だが、東芝の佐々木はひるまなかった。「福島で起きた事故をしっかり反省したうえで、じゃあどういう設計をすべきか」、新たな安全性の知見を取り込んだ原発にすれば、「(原発市場は)縮小というより、増えるのではないですかね」と、経産省の機密資料と同じようなことを言うようになった(*2)。米国でのサウス・テキサス・プロジェクトも「新たなパートナーを探したい」とあきらめようとしない。

 原子力一筋に生きてきた佐々木にとって原発は自身のレゾンデートルであり、思い切った軌道修正ができなかった。原発事故後も、東芝の担当者は「チェコやポーランド、フィンランドから新規の引き合いがあります。英国でも提案活動中で、原発の製造だけでなく発電のオペレートも担います」と、原発新造の〝可能性〞に賭けていた(*3)。

 米国も、日本が引き続き原発を造り続けることを期待した。民主党政権末期、「2030年代に原発をゼロ」とする脱原発政策を閣議決定する作業に入っていたころのことである。内閣府の大串博志政務官は日本の原子力政策の転換を説明しようと訪米したところ、国家安全保障会議のフロマン補佐官から「日本が原子力政策をやめた場合、技術者の育成はどうなるのか」「日本の技術を基にした国際貢献は今後どうなるのか」などと、主に原子力技術の継続性という観点から執拗に質問を受けたという。

 大串は、フロマンとのやりとりを通じて、米国の本音は「いままで通り日本が原発製造を継続することにある」と受け止めた。「明示的に日本が原発メーカーを持ち続けてほしいと言ったわけではないのですが、その暗示するところは日本の原発ビジネスを継続してほしい、ということでした(*4)」

 私は、事故後も強気一辺倒の佐々木に対して、東芝の原子力ビジネスの軌道修正は不可避ではないかと思って尋ねたことがある。

――福島第一原発事故によって、もはや原発に将来性はないのでは。

「あなたがたマスコミはすぐそういうことを言うが、関係ない。海外からの引き合いはすごく多いですよ」

――東芝のパートナーの東京電力がああいう事態になって、もはや一緒に原発輸出をするというのは、うまくいかないのではないか。

「でもウチにはウェスチングハウスというアメリカの会社があるから。東電の影響がまったくないとは言わないけれど、他の原発メーカーと比べれば、ウェスチングハウスがあるだけウチは影響が軽いよ。だから、しっかりやっていく」

――サウス・テキサス・プロジェクトは実現が危ぶまれ、トルコは有力視されていた東芝ではなく、代わって三菱重工が受注することになった。

「ウェスチングハウスのAP―1000については米NRCが安全審査に5年もかけると言い出したが、三菱重工と仏アレバの(共同開発した新型原発)アトメアは、フランスの当局がたった2年で耐震審査をやると言っているんだ。その違いでウチが落ちて、重工が取っただけ。原発事故後、フランスからサルコジ大統領が日本にすぐやってきて『ウチの国に任せろ』と言ったけれど、結局、事故処理ができていないでしょう。そういうリップサービスの国なんだ。ああいうリップサービスには、私は何らかのペナルティがあってもいいと思っているくらいだ(*5)」

*2 「日経ビジネス」、2011年8月29日号、「編集長インタビュー 佐々木則夫氏 東芝社長」。
*3 米倉和義へのインタビュー。2013年10月18日。
*4 大串博志へのインタビュー。2017年3月24日。
*5 佐々木則夫への取材。2013年11月11日。

 * * *

 佐々木社長の強気の発言の陰で、西田厚聰社長時代に始まったパソコン部門の粉飾はさらに拡大。蜜月だった西田氏と佐々木氏の関係が決定的に悪化し、東芝社内は内戦状態に陥ります。続きは『東芝の悲劇』でお読みいただけると幸いです。

 次回は11月2日に公開予定です。

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東芝の悲劇

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大鹿靖明

1965年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。ジャーナリスト。著書に『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』(朝日新聞社)、『ヒルズ黙示録・最終章』(朝日新書)、『墜ちた翼 ドキュメントJAL倒産』(朝日新聞出版社)、『ジャーナリズムの現場から』(講談社現代新書)。『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社)で第34回講談社ノンフィクション賞を受賞。築地の新聞社に勤務。2017年、労組委員長に立候補し、落選。

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