■宇宙の「始まり」も見られるようになるはず
重力波天文学は、電磁波を使う従来の天文学とはまったく違う可能性を秘めています。重力波天文学では単に宇宙にある天体を観測するだけではなく、宇宙そのものの「始まり」を見ることができるはずなのです。
電磁波も重力波も、出発した瞬間に私たちのところに届くわけではありません。どちらも光速で伝わるので(秒速30万キロメートルという猛烈な速さではありますが)、遠ければ遠いほど、届くまで時間がかかります。
そのため、私たちは遠くの天体の「現在」を見ることはできません。100万光年離れた星から届く光は、100万年前のものです(ちなみに太陽から地球までは光速で約8分かかるので、私たちが見ているのは8分前の太陽です)。したがって、遠くを見るほど「昔の宇宙」を見ていることになります。ならば、望遠鏡の性能を高めてどんどん遠くを見ていけば、やがて宇宙誕生の時代にたどり着くことになります。それは、いまから約138億年前であることがわかっています。
ところが、ある事情によって、宇宙誕生から38万年までの姿は直接光で見ることができません。その時代の宇宙は、光がまっすぐに飛ぶことができず、現在の地球にそのままでは届かないからです。
それに対して、重力波は宇宙誕生の瞬間からまっすぐに飛ぶことができました。そこが、光との大きな違いです。ですから、重力波望遠鏡の性能さえ上げれば、宇宙誕生の瞬間をキャッチできるに違いありません。それによって、私たちは自分たちの暮らす宇宙がどのようにして始まったのかを理解できる可能性があるのです。
* * *
重力波天文学についてもっと知りたい!と思われたかたは、川村さんの著書『重力波とは何か――アインシュタインが奏でる宇宙からのメロディー』をお読みいただけると幸いです。
次回は11月9日に掲載予定です。
重力波とは何かの記事をもっと読む
重力波とは何か
2017年のノーベル物理学賞はアメリカの「重力波」観測チームが受賞しました。重力波とは一体何なのか? 重力波の観測にはどんな意義があるのか? 日本の第一人者がわかりやすく解説します。