■光でなく重力波で宇宙を見る、新しい天文学
ただし、この発見の意味はそれだけではありません。
相対性理論の予言を検証することだけが目的だとすれば、もう重力波の検出実験を続ける必要はないでしょう。しかし、LIGOが引き続き観測を続けているのはもちろん、日本や欧州でも同じような研究が行われています。重力波研究の目的は、「発見」だけではないからです。むしろ、存在が証明された重力波をこれから「使う」ことのほうが大事だともいえるのです。
そもそもアインシュタインの予言した重力波が存在すること自体は、1970年代に間接的な形では証明されていました。詳しくはのちほど説明しますが、重力波が存在すると考えなければ起こり得ない天体現象が観測されたのです。
でも、「ある」とわかっただけでは、重力波を「使う」ことはできません。それを使って何かをするためには、直接検出する必要があります。
では、重力波は何に使うことができるのでしょうか。
およそ400年前にガリレオ・ガリレイ(1564〜1642)が初めて空に望遠鏡を向けて以来、天文学の世界では、これまでさまざまな「電磁波(光)」を使って宇宙を観測してきました。
電磁波には、波長の違いによって異なる名前がつけられています。光学望遠鏡でキャッチする可視光も、電磁波の一種。可視光だけではとらえられない天体現象もたくさんあるため、さまざまな波長の電磁波を「見る」ことのできる電波望遠鏡、赤外線望遠鏡、X線望遠鏡などがつくられてきました。それぞれの電磁波を使う分野は、「電波天文学」「赤外線天文学」「X線天文学」などと呼ばれます。
重力波の使いみちは、その電磁波と同じだと思ってもらえばいいでしょう。宇宙には、電磁波では観測できない天体現象があります。たとえばブラックホールは強い重力によって光も吸い込んでしまうので、電磁波では観測することが困難です。しかしそこから重力波が出ていれば、それをキャッチすることで、電磁波では見えない世界が見える可能性があります。
それこそ、重力波研究の最大の目的にほかなりません。重力波検出器とは、いってみれ
ば「重力波望遠鏡」なのです。その望遠鏡を使って宇宙を観測する「重力波天文学」を始
めるために、まずは重力波を直接検出することが必要だったのです。
ですからLIGOによる重力波検出は、アインシュタインの正しさを裏付けたと同時に、新しい天文学の幕開けにもなりました。
実際、LIGOは重力波を検出することで、それまで見つかっていなかったものを発見しています。「ブラックホール連星」です。これは近接する二つのブラックホールがお互いのまわりをぐるぐると回転する天体現象で、「そういうものがあるだろう」と思われてはいましたが、観測されていませんでした。
LIGOが初めてキャッチした重力波は、そのブラックホール連星の合体によるものと考えられます。したがってLIGOは、重力波とブラックホール連星を同時に「発見」したといっていいでしょう。重力波天文学が始まった瞬間に、その分野で最初の成果を挙げたことになるわけです。
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