ブラックホールが合体する瞬間をキャッチせよ!
しかし宇宙に目を向ければ、地球上ではあり得ないような、とてつもなくスケールの大きな重力現象が存在します。巨大な天体が激しく運動すれば、その空間の歪みから生じる重力波も強いものになるでしょう。
そのような天体現象の中でも、直接検出できる重力波源としてとくに期待されているのは、超新星爆発、中性子星連星の合体、そしてブラックホール連星の合体。重力波の直接検出を目指す実験が始まって以来、期待される重力波源はおもにこの3つでした。連星とは、2つ以上の星が連なって引きつけあい、回転しているものです。中性子星やブラックホールのように非常に質量が大きく重力が強い天体から成る連星が、さらに接近して合体してしまうとき、強い重力波が発生するのです。
超新星爆発は発生頻度があまり高くありません。宇宙全体ではたくさん起きていると思われますが、重力波を検出できるほど近くで超新星爆発が起きるのは、せいぜい数十年に一度ぐらいです。
直近では、1987年にそのチャンスがありました。その年の2月に大マゼラン星雲で起きた超新星爆発です。
これは日本にノーベル賞をもたらしたので、ご存じの方も多いでしょう。この超新星爆発から出たニュートリノを日本のカミオカンデが検出したことで、実験リーダーの小柴昌俊さんは2002年にノーベル物理学賞を受賞しました。その業績は、「ニュートリノ天文学」という新しい分野を切り開きました。
もし、その時点で重力波検出器の感度が現在のレベルまで向上していたら、あの超新星
爆発は「一粒で二度おいしい」現象になったかもしれません。重力波を検出することで、「ニュートリノ天文学」だけではなく、「重力波天文学」の幕もそこで開いた可能性があるからです。
しかし残念ながら、当時の技術レベルはまだそこまで到達していませんでした。米国のLIGO計画がスタートしたのは、その5年後のことです。
また、中性子星連星はすでに10個ほど見つかっていますが、ブラックホール連星は存在が予測されているだけでした。そのため中性子星連星の合体が重力波検出の有力候補と見なされていたのですが、ブラックホール連星の合体による重力波のほうが先に検出されるのではないかという予測もなかったわけではありません。中性子星よりも重いブラックホール連星が存在するなら、その合体のほうが中性子星連星の合体よりも強い重力波を発生させるはずだからです。
その予測どおりになったのが、LIGOによる重力波の初検出でした。キャッチした重力波は、ブラックホール連星の合体によるものだと考えなければ説明がつかないものだったのです。
重力波のみならず、ブラックホール連星をも同時に発見したのですから、「重力波天文学の幕開け」と呼ぶにふさわしい業績といえます。ノーベル賞2つ分の価値があるといっても過言ではないほどの大発見だったのです。
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ノーベル賞の発表直後、LIGOが中性子連星の合体による重力波の観測にも成功したという嬉しいニュースが飛び込んできました。とんでもなくスケールの大きい、連星の合体のダイナミズムは、川村静児さんの著書『重力波とは何か――アインシュタインが奏でる宇宙からのメロディー』をお楽しみいただけると幸いです。
次回は11月23日に公開予定です。
重力波とは何か
2017年のノーベル物理学賞はアメリカの「重力波」観測チームが受賞しました。重力波とは一体何なのか? 重力波の観測にはどんな意義があるのか? 日本の第一人者がわかりやすく解説します。