食事療法やインスリン治療でも改善しない糖尿病が、歯周病の治療をすることで劇的に良くなることがあります。
そのカギになるのが、最近医療の世界で注目されている「慢性炎症」です。慢性炎症とはいったい何でしょうか?
『糖尿病がイヤなら歯を磨きなさい――内科医が教えるお口と体の健康の新常識』の著者・西田亙さんが解説します。
歯周病はお口のなかで起きている「ボヤ」
歯周病とは、「歯肉炎」と「歯周炎」という、外からやってきたバイ菌が歯のまわりに感染することで起こる病気です。お口の中で、火事までには至らない「ボヤ」が起きている状態にたとえられます。大きな火事ならすぐに消火されますが、小さなボヤはそのまま放っておかれ、くすぶり続けます。このずっと続くボヤが「慢性炎症」なのです。
お口が臭いときは、歯のまわりでボヤが起きています。また、歯周病の人は、体力が弱ったとき「歯が浮く」ようなことがあります。風邪やインフルエンザのような熱が出るわけではないのですが、この歯のまわりの浮く感じが、まさに慢性炎症なのです。
慢性炎症の影響は歯ぐきだけにとどまりません。歯周病菌などのバイ菌は、歯ぐきを通して体の血管に入りこみます。このときにボヤの煙とも言うべき悪玉ホルモン(炎症性サイトカインと言います)が出て、さまざまな「悪さ」を働くのです。
内臓脂肪がたまると「お腹ボヤ」が起きる
では糖尿病は「慢性炎症」とどう関係しているのでしょうか。
内臓脂肪をたっぷりためこみ太った人が糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞などになりやすいことは、みなさんもよくご存じでしょう。
実はこれらの病気が、内臓脂肪の「慢性炎症」によって引き起こされるということが、
医学界でも最近ようやく言われ始めました。
お腹ボヤ(慢性炎症)が起こるメカニズムはこうです。
中性脂肪をためている脂肪細胞は、本来は丸い小型です。それが、「食っちゃ寝、食っちゃ寝」の不摂生を続けていると、細胞の中に中性脂肪の油滴がたまり続け、しまいには針で突くと破れんばかりに肥大します。そして脂肪細胞がものすごく大きくなると、人体の免疫軍団はそれを異物と認識して、悪玉脂肪細胞相手に戦争(炎症)を起こします。戦いは長期化し、ボヤ(慢性炎症)が起き、ここで悪玉ホルモンの煙が出るというわけです。
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糖尿病がイヤなら歯を磨きなさい
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