天皇家の普段のお食事は、贅を尽くしたごちそうではなく、野菜中心のバランスのとれた献立でした。
天皇陛下の長寿と健康を26年間支えた料理人が、宮内庁大膳課で培われた料理のコツと“こころ”とともに、97の和のレシピをご紹介する書籍『天皇陛下料理番の和のレシピ』。この書籍の内容をダイジェスト版でお届けします。
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大膳課は5つの係に分かれる
宮内庁大膳課とは、天皇陛下や皇族方の日常のお食事や、宮中行事の際に饗宴、茶会などの料理を作る部署で、いわば「天皇家の台所」です。
私が勤め始めたのは1964年、17歳の時のことでした。そこから昭和天皇崩御までの26年間奉職しました(ですので、このコラムにおける「天皇陛下」とは、とくにことわりがない限り昭和天皇のことです)。当時の私の身分は国家公務員になります。
大膳課は第一係から第五係まで分かれていて、第一係は和食、第二係は洋食、第三係は和菓子、第四係はパンと洋菓子、そして第五係が東宮御所担当になります。
私が勤めていた第一係は、当時6人の料理人がいました。メニューを用意して、食事を作る人は「厨司(ちゅうじ)」、配膳や食器洗いをする人は「主膳(しゅぜん)」と呼ばれていて、東宮御所を含め約50人が勤務していました。
このように係が分かれているので、毎食、和食が担当したわけではありません。朝食はおおむね洋食でしたから、そちらは第二係の仕事です。そして昼食が洋食なら夕食は和食、昼食が和食なら夕食は洋食と決まっていましたので、第一係は昼食か夕食のどちらか一方を作ることになります。献立はおよそ2週間前には決まっていました。
陛下にお食事を供するまで
お食事はいつも、5~6人分を調えることになっていました。両陛下のほか、栄養をチェックする侍医(じい)さんの分、予備とお代わりの分です。
講演会などで「『お毒見』はあるのですか?」と聞かれることもありますが、それはありません。お毒見があったとすれば、お殿様がいつ家臣に裏切られるかわからない時代のお話でしょう。もし本当に厳重にチェックするとなれば、陛下がお召し上がりになる食事に毒見役が先に直接口をつけなければ意味がないので、そんなことは到底ありえないことです。
陛下がお住まいになっていたところは吹上御所という建物です。お食事もそちらの御食堂(おしょくどう)で召し上がります。こちらには簡単な厨房はあるのですが、大膳課の厨房は宮殿という建物にあります。ですので、下ごしらえまでは大膳課の厨房でし、それを主膳さんが岡持ちに入れて車で運び、最後の仕上げを吹上御所の厨房でしていました。料理は供進所(くしんじょ)という御食堂の隣室に運ばれ、女官(にょかん)さんの手で両陛下のもとに届けられます。
私たちは、お代わりされるときのためにその供進所に控えており、壁一枚向こうから両陛下のご歓談のご様子を窺うことができたのでした。
だしのとり方
だしは全ての料理の基礎になるものです。
美味しい料理を作るための第一歩とも言えるのではないでしょうか。
ここでは、昆布と削りがつおの風味を生かした、一番だしのとり方をご紹介します。
◆材料(でき上がり900cc)
・昆布 … 10cm
・削りがつお … 20g
・水 … 1リットル
※昆布は日高産がおすすめ。
※削りがつおは血合いつきでよい。
◆作り方
1) 昆布を乾いたふきんで拭き、鍋に水とともに入れ、5分おく。弱火にかけ、沸騰したら火を止め、昆布を引き上げる。
2) 1)の昆布だしに削りがつおを一度に入れる。
3) そのまま2~3分おき、少し沈むまで待つ。
4) キッチンペーパーまたはさらしを敷いたざるで漉す。絞ると雑味が出てだしが濁るので、自然に落とす。
5) これで約900㏄の澄んだだしがとれる。
※第3回は5月10日(日)更新予定です
天皇陛下料理番の和のレシピ
天皇家の普段のお食事は、贅を尽くしたごちそうではなく、野菜中心のバランスのとれた献立でした。
天皇陛下の長寿と健康を26年間支えた料理人が、宮内庁大膳課で培われた料理のコツと“こころ”とともに、97の和のレシピをご紹介する書籍『天皇陛下料理番の和のレシピ』。この書籍の内容をダイジェスト版でお届けします。