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2013.12.12 公開 ポスト

特集〈狂わずして何が人生〉<br>「サッカー本はなぜ人を夢中にさせるのか?」<br>二本柳陵介(編集者)インタビュー

第1回『心を整える。』が心を掴んだ理由
二本柳陵介

女性の心を鷲掴みにした

──時期的には、2010年のワールドカップ南アフリカ大会の前ですね。

 そうですね。ワールドカップを前に「30人が予想するベストイレブン」という企画が専門誌に掲載されていて、そのうち29人が長谷部選手を入れていたんです。要は、メディアの人間にも好かれる、監督にも信頼される、チームメイトにも好かれるということだろうと。一家に一台、チームにひとり、長谷部誠……じゃないけど(笑)、そういう安定感、信頼感のある選手なんだと思うんですね。

 圧倒的なエースではないが、必ず求められる人材。それはそれでスゴイことですよ。これって組織人、企業人の生き方にも通じます。華やかでも、ズバ抜けた才能を持つわけでもないけど、誰もがレギュラーとしてプロジェクトメンバーのひとりに挙げてくれる、みたいな。そういう人材を目指すのは簡単ではないけど、でも非常に賢い生き残り方ともいえる。

──同書は2011年3月18日の刊行でした。

 はい。ワールドカップ南ア大会では、長谷部選手はゲームキャプテンにも指名されて、素晴らしいリーダーシップを発揮してくれました。そして、パラグアイ戦で負けてしまったとき、声援に対する感謝の言葉とともに「ほとんどの選手がJリーグでプレーしているので、そちらにも足を運んでください」と、スピーチをしたんです。それが、ワールドカップではじめて代表戦を見たような視聴者、とりわけ女性のハートを鷲掴みにしたように思います。さらには震災直後、長居スタジアムでのチャリティイベントでも、とても立派なスピーチをした。そこでますます、女性が注目したのではないかと。

 『心を整える。』は、長谷部選手の女性人気に火が付いたことが、本の売れ行きにも大きく影響したと思います。販売動向を見ても、40代女性、30代女性、20代女性、20代男性の順番で売れていきました。僕としては当初、まずは20代男性、次に10代男性を意識して本をつくったんですけど……。中学生が読んでも大丈夫なように、漢字に丁寧にルビをふったりして、読みやすさも強く意識しました。

──読者の男女比は?

 長谷部選手の本は6:4の割合で女性が多いですね。さらにいうなら、これまでビジネス書や自己啓発書を手にしたことがないような読者も多いと思います。

──それにしても『心を整える。』には、『7つの習慣』や『人を動かす』といった定番自己啓発書で語られているようなメッセージが、見事に盛り込まれています。中途半端な自己啓発書を読むくらいなら、『心を整える。』を読むほうがはるかにタメになるような気がします。

 長谷部選手自身が、そうした自己啓発書をちゃんと読んでいることも大きいでしょうね。それに誤解を恐れずにいうなら、ちょっとヘンなくらい真面目ですからね、長谷部選手。

──文章からも滲み出ていますが、真面目すぎて、ちょっと面白いところもありますよね。

 はい。それが、たまらなく魅力的なんですよ。本の中にも出てきますけど、長谷部選手はうっかり寝てしまったことがないそうなんです。初めてその話を聞いたとき、3回確認しましたからね。「本当ですか?」って。僕なんて電車で寝過ごしたり、うっかり寝てしまうことがしょっちゅうあるのに。でも、長谷部選手は、まず横になってから30分、天井を眺めながら呼吸を整え、心を落ち着かせてから寝ると。僕なんて横になったら1、2分で寝てしまいます(笑)。そういう、長谷部さんらしさをフックにしながら自己啓発の文脈が綴られているので、これまで自己啓発書に触れたことのない人が、新鮮に読み進めてくれたのかなと。

──読者の反応は、編集者としてもしてやったり、といったところですか?

 そうですね。こちらが意識してつくったところを、ちゃんと読み取ってくださったのかなと。やはり、嬉しいですよね。

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二本柳陵介

集英社で編集アルバイトを経て、講談社「ホットドッグ・プレス」の編集を担当。2004年幻冬舎入社。雑誌「ゲーテ」の創刊メンバー。現在「ゲーテ」の副編集長として時計などの担当。雑誌編集の傍ら、長谷部誠「心を整える。」、内田篤人「僕は自分が見たことしか信じない」、中村俊輔「察知力」、楢崎正剛「失点」、横井素子「セレッソ・アイデンティティ」、桑田真澄「心の野球」、ケンタロウ「小林カレー」、長澤まさみ「NO MEANING」、山口信吾「死ぬまでゴルフ!」、「PREMIUM G-SHOCK」などの単行本や、ゴルフ場運営会社「アコーディア」の会員誌の編集も兼務。好きな食べ物はカニクリームコロッケ。欠点は早口。好きな本は警察小説全般。

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