「反共」を紐帯とした戦後日本の権力構造
片山 ちなみに安岡の考え方は、創価学会の「人間革命」と似たところがある。共産党と公明党は不倶戴天の敵ですが、この両者が絶対に共闘できないのは、「資本主義のまま人間の心が変われば、このシステムを変えなくても道義的な社会が実現する」というのが創価学会の人間革命思想だからです。
安岡は創価学会とは関係ないし、日蓮主義でもないんだけど、ある意味の人間革命思想なんですね。たとえば日本浪漫派の林房雄もそうですが、戦後の保守派は、いかに明治・大正・昭和の実業家が立派な人物だったかをやたらと語りました。渋沢栄一を称揚するのもその路線ですよね。あれはつまり「経済人が道義的存在であれば社会主義革命は必要ない」と言いたいわけです。
安岡も戦前の段階で、左翼的な労働運動に対抗して、神野信一(かみのしんいち)を担いで日本主義労働運動を推進しました。「労使協調」「報国精神」をモットーに、天皇の下で資本家も労働者も大日本のためにいっしょに戦うんだという話です。
そうやって「反共」を紐帯としてつくられたのが戦後日本の資本主義であり、親米路線でした。白井さん的に言えば、それが「戦後の新しい国体」になったわけです。共産主義を入れずに、天皇を守り、日本の資本主義を維持するには、アメリカを楯にするしかない。そんな路線で結合した集団ですね。
白井 戦後日本のもっともファンダメンタルな権力構造のメインストリームは、実はそのへんにあったと思います。
*第2回に続く。
(構成 岡田仁志)