平成も残すところ約1カ月。4月1日には新元号が発表になります。今回の代替わりのきっかけとなった2016年8月の天皇陛下のお気持ち表明のお言葉を、片山杜秀さんも白井聡さんも、世間一般が考えているより、きわめてラジカルなものであったと捉えています。なかでも、片山さんが「革命的な大事件」と断ずるのは、今回の改元です。「崩御を伴わない改元」の持つ重大な意味とはいったい何でしょうか? 片山杜秀さんと白井聡さんの対談、第2回をお届けします。
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天皇自らが言葉を発する前に、その気持ちを「徹見」せよ
白井 『平成精神史』の安岡論で語られていた革命の話は、退位をめぐる今上天皇の「お言葉」にもつながりますよね。
あのお言葉に関しては、私も『国体論 菊と星条旗』で自分なりの解釈を示しましたが、世の中を見渡すと、ラジカルな解釈がほとんど見当たらない。みんなあの事件をできるだけ小さなことにしてやり過ごそうとしている。そうしたなかで、片山さんは『平成史』の中でも、「これはとんでもないことになるぞ」という点で佐藤優さんと意見が一致していました。あのお言葉は革命的な大事件だとおっしゃっているわけです。それは何かというと、明治以来の「一世一元」が崩れたことですよね。
そこで、この一世一元というシステムと安岡の思想がどういう関係になっているのかをお聞かせ願えればと思います。そもそも中国の易姓(えきせい)革命と安岡の錦旗(きんき)革命論の違いというところが大事なんですよね。
片山 中国における革命は儒教的な思想で、まず「天」の正義がある。皇帝にはそれを地上で実現する使命があり、皇帝が正義を実現できなくなると国が乱れてくるわけです。すると、王朝を取り替えることができる。天の正義は不動で、その代理人としての皇帝が機能を果たさなくなると王朝を変えていい。それが易姓革命の論理です。
しかし日本の歴史においては、少なくとも神話を信じるかぎり、国家の起源にさかのぼる頃から、天皇以外の支配者が頂点に立っていた時代が見当たらない。もちろん実際は将軍や藤原家が権力者なんだけど、天皇が最上位という形は崩れないでずっときている。天皇はいつも、天の正義を現人神(あらひとがみ)として独占している。だから、天皇家がずっと、中国の皇帝に相当するものとして存在する。儒教的にはそのように見えます。
中国の場合、国がおかしくなると誰かが天の声を忖度して、「いまの皇帝は天の意向に反しているはずだ」として革命を起こせます。実際、革命が起きて王朝が交替し、辛亥革命では清朝が倒れ、ついには王朝そのものがなくなった。
ところが日本では、革命が起きてこなかった。したがって、少なくともこれまでの歴史においては、天の意向を天皇が担っているという前提が崩れていないと考えられます。安岡はそこを絶対的にして、猛烈な「天皇推し」をやったわけです。
革命は儒教的に言うと、天意を酌んで起こすものだが、日本で天意を酌んできたのは天皇だけと考えられるから、日本で革命を起こせるのは天皇しかいない。天皇が本当に革命を起こすべきだと思えば、天皇自らがそれを言う。天皇自らが言わないときは、日本で革命を考えてもしようがない。要するに革命権は天皇の占有する権利である。これが安岡の「錦旗革命論」です。
錦の御旗と言うと、旗を取ってきてしまえば、誰でも革命を起こせるように勘違いされることもあるのですが、安岡の論だと、錦の御旗を立てられるのは天皇自身以外にはない。みこしを担ぐ論理とはまったく違います。
とはいえ、革命を起こさなくていいといっても、いつも正しい政治が行われているわけではない。そこで、天皇自らが言い出す前に、臣民としての日本人は、「天皇陛下はいまご心配なさっているはずだ」としっかりわかるような人格を涵養しなければいけない。で、安岡の講義を聞いていれば、天皇がどう思っているかがわかるようになる。だから私の話を聞きに来なさい、と(笑)。
とくに明治国家体制において、天皇に直接任命される形式をとっていた、つまり勅任官(ちょくにんかん)である高級官僚は、天皇の気持ちをわかるのが仕事なんだと、安岡は教えます。これが「士道」です。「士」とは「天の意思」を分かる人のことです。
そこで安岡がよく使うのが「徹見(てつけん)」という言葉です。安岡に学んで、天皇の意思を徹見する眼力を養わなければいけない。天皇は直接言いにこないし、奥ゆかしく黙っているというのが、日本の政治伝統です。聞こえない言葉を正しく聞き、見えない意思を正しく見るのが日本の士の道になります。
官吏にその能力があれば、暴力革命は必要ない。行政官が天皇の意思どおりにやれば、日本は天の正義を実現できる。丸山眞男はかつて「民主主義の永久革命」と言いましたが、安岡は「徹見による永久革命」なんです。徹見永久革命によって、天皇の官吏が日本を永遠に立派にし続ける。
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