大嘗祭についての秋篠宮発言は宮廷クーデター?
白井 秋篠宮が記者会見で言及した、大嘗祭(だいじょうさい)の問題もそこに関係してきますね。
片山 あれを国費で賄うことについて否定的なことを秋篠宮に言わせたのは、今上天皇が政教分離の建前を通したかったからでしょう。
天皇の代替わりに伴う大嘗祭は、非常にスピリチュアルかつミステリアスな儀礼です。あれを国費でやるのは神秘国家ですよね。戦後民主主義にふさわしい人間天皇の理想とは相容れません。だから今上天皇としては、自分は即位するときにやったけれど、わが子には国費でやらせたくない。
その意思は、官房長官や総理大臣のレベルまで上がっているはずです。秋篠宮は「宮内庁が聞く耳を持たなかった」と言いましたが、宮内庁がそんなことを勝手に判断するわけがありません。ところがその話がまったく表に出てこない。本当はこれも天皇自らビデオメッセージで発したかったのではないですか。「大嘗祭は私費でやります」と。それをやらせてもらえないから、秋篠宮に言わせた。あれは一種の宮廷クーデターの試みではないでしょうか。
白井 戦後、GHQは神道指令によって、国家神道を諸悪の根源として潰しました。ただし神道そのものを禁止すると宗教弾圧だということになってしまうので、国家と神道を切り離した。だから、神道の宗教性がある行事を天皇が行う場合、国の行事としてやるのはまずい。これは筋論としては正しいわけです。
しかしそれが国家の行事なのか宗教の行事なのかという線引きが難しいのもたしかで、そこは戦後ずっと曖昧なままにされてきました。「大嘗祭は公的な性格も持つから国の行事だ」という論理で押し切られてきたんですね。
しかし今回は「それじゃいかんだろう」と、皇族自身から言われてしまいました。これはつまり、天皇や皇族が、戦後憲法の価値観に対してあらためて忠誠を誓っているということでしょう。さらに言えば、世の中に対しても、「この憲法の価値観をもっと徹底的に積極的に適用していくべきだ」と提言したのだと思います。退位に関する今上天皇のお言葉で示された理路とも軌を一にしている。
この重大な発言に日本社会がほとんど反応しなかったのは、いったいどういうことなのかと思いますよね。
(構成 岡田仁志)
*第3回に続く。第3回は3月30日に公開予定です。
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