年号が変わったのはつい最近ですが、すっかり「令和」に馴染んできた今日この頃。女性天皇、女系天皇など、「女性」に纏わるテーマはいつも熱く盛り上がります。なんにおいても、「女性だから、女性なのに」の声があるとき、やはり世の中は「まだまだ女性が生きやすい世の中」では決してないのかもしれないなぁという思いがチラリ。が、そもそも。女性たちって、「女性が生きやすい世の中」を求めているものでしょうか。「女」だなんて、大きなくくりではなく、「私」が生きやすい世の中をいつも求めているものではないでしょうか。では「私の幸せ」とは何なのか? 令和になろうが、なんであろうが、いつの時代も女性の本音ほどわからないものはありません。その永遠の謎に挑んだ一気読みミステリをご紹介したいと思います。(文:編集部)
令和元年、女性たちに読んでほしい一冊
パワハラ、セクハラ、マタハラ、MeToo、KuToo……。女性を取り囲む状況は現在進行形で厳しいです。就職したくても就職できなかったり、いざ働いて仕事が楽しくなってきたら周りの上司や若手にうざがられたり、気づいたら婚期を逃していたり。それどころか子どもを産みたくても会社に居場所がなくなるのが怖くて産めなかったり、いざ産もうとしたら高齢出産で不妊治療にお金がかかったり。やっと妊娠できたら今度は産休がとりづらかったり、やっと産んだら育休とるには肩身が狭かったり、復帰しようと思ったら保育園に入れなかったり……。もう、何がどうなったら女性が生きやすい世の中になるのか出口がわかりません。
そんな出口のない状態で右往左往している女性たちの心を代弁するかのように、『彼女たちの犯罪』の登場人物たちは自らの事情と思いを吐露します。
「女の幸せ」と「私の幸せ」は違う?
”相手はどんな男かわからないが、結婚というチケットを手に入れた途端、彼女が一気に別世界の住人になってしまったような強烈な疎外感を覚えたのだ。容姿も十人並で、仕事もできない彼女だったが、結婚という一点において私より勝っている。その事実に繭美は打ちのめされたのだ”
”義母は間違っている。孫が生まれないのは嫁に責任があるわけではない。私を抱かない夫に問題があるのだ”
これは、作中に登場する「美人のキャリアウーマンの繭美」と「医者の妻の由香里」の赤裸々な心中です。暮らす場所も生活パターンも生い立ちも全然違う二人にとって「女として」の共通の幸せはありません。美しく仕事もできるのに結婚できず切羽詰まっている繭美の今の幸せは「結婚のチケットを手にいれること」で、夫の浮気を疑いつつ義父母と同居する由香里の今の幸せは「子供を作ること」かどうか。本当の幸せなんて、人それぞれで、それは本人も知り得ないことなのです。「結婚しないこと」も「産まないこと」も自分で選択したわけではないのに、知らぬ間に自分はその人生を歩んでいる。その先に「彼女たちの幸せ」はあるのでしょうか。
「ルパンの娘」の原作者が書く「私たちの物語」
男性が育児に参加し始めたり、社会的にワーキングママに協力的な気配が出てきたり。昔に比べたら、女性を取り囲む状況は好転しているとも言えます。一方で、そうなってくると、「産まない女性」「働かない女性」にとってそれは働きやすい、生きやすい世の中でしょうか。みんながみんな「産んでる女性」「働く女性」の方ばかり見て、「じゃない方」が手薄になってはいないでしょうか。
そもそも女性は、「自分がしてもらったこと」より「自分がしてもらえなかったこと」を覚え恨めしく思うものです。他の女性が何かしてもらったところで、自分に得がなければ、嬉しくもなんともありません。みんな自分の人生を生きているときに、十把一絡げに「女の幸せ」なんて考えるわけがありません。みんな「私の幸せ」を考えているから。そんな女性たちの複雑な心境を一気読みミステリとした『彼女たちの犯罪』の著者である横関大さんに、”彼女たち”に着目した理由をインタビューしました。横関大さんは大人気ドラマ「ルパンの娘」の著者でもあります。”ルパンの娘”のあとに”平凡な女たち”を主人公にしたミステリを書いた理由とは?
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彼女たちの犯罪
乱歩賞作家横関大さんの単行本最新刊『彼女たちの犯罪』の特集記事です。試し読み、著者インタビューなど。