「50点」の意味
私の移住は成功なのか失敗なのか。
点数をつけるなら、50点といったところだろうか。成功でも失敗でもなく。
「移住観」はいろいろだ。居ついたところでずっと暮らすのが、移住の本来の在り方だと思う人も多い。私も当初はそのように思っていた。
しかし私は、移住した土地を出ていこうと考えている。この地で、私はたしかに貴重な経験をたくさんした。でも、それにしがみつきたくはない。目標を見失った抜け殻のまま生きていくぐらいなら、リスクがあっても、新天地、新事業で挑戦したい。それは私の存在証明なのかもしれない。
そして私は幸いにも、また別の地、新たな目標へと向かって進むチャンスを得た。だから50点。進むことも戻ることもできずに停滞するのではなく、前進することができたのだから。
私の移住した三陸沿岸部は、自然が豊かで、仕事も選ばなければそれなりにある。のんびりと生きていくには、とてもよい場所だ。しかし、今の私には、ここで生きていく意味を見つけることができない。隠居生活のような日々を送るのはまだ早い。そう思った瞬間から、心はもう別の場所へと向かっていた。
生きる「理由」があればサバイバルできる
この連載では、移住先で生き延びてきた私の考えや経験を、「サバイバル」というテーマでお伝えしてきた。
当初私は、移住したら、そこで最後まで粘り強く生きていくことが正道だと考えていた。しかし移住生活を続ける中で、無目的に生活するのでなく、何かの目標に向かってノビノビと生きていくことが、私にとっての移住なのではないかと思うようになった。
つまり必要なのは、ここで生きていくための「理由」。移住した当初は、漁業に挑戦したり、町おこしのイベントを主催したりと、生きる理由が明確にあった。しかし今はない。
「漁師を辞めて、他の新しいこと、新しい場所へと進んでいきたい。自分の命をもっと世の中の役に立てたい。自分が生きた証を残したい」
妻に正直に話をすると、心が向かう場所へと進むのが、あなたの生き方なんじゃないと言ってくれた。
また一から人間関係を築いたり、苦労をしたりするのなんて嫌だと思う人もいるだろう。だが、私は、ただ生きているだけの存在になることのほうが、ずっと怖い。
私たち夫婦には子どもがいない。子孫という証を未来に残せない分、自分がこの世に生きた証を別のかたちで少しでも残したいと願うのは、決して我儘なことではないと思う。そんなことを夫婦で一晩話し合った。
まだ明かせないが、今挑戦しているプロテイン事業がひと段落したら、人生最後のミッションに取り組んでみたいとも考えている。
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移住サバイバル
東日本大震災を機に宮城県石巻市に移住した山本圭一さん。家なし、知り合いなし、文字通りゼロから始まったサバイバル生活の記録。