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雅子さまの笑顔

2020.05.08 公開 ポスト

「雅子とともに」で作る令和流矢部万紀子(コラムニスト)

4月10日、尾身茂・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長のご進講を受けられた(宮内庁提供)

「今後、私たち皆がなお一層心を一つにして力を合わせながら、この感染症を新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の副座長抑え込み、現在の難しい状況を乗り越えていくことを心から願っています」――新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の副座長・尾身茂さんのご進講の後、このように述べられた天皇陛下。目に見えるかたちで「国民とともにある」ことが難しくなってしまったなかで迎えた2年目の令和ですが、陛下には一貫して揺るがない、ひとつのスタイルがあるとコラムニストの矢部万紀子さんは言います。矢部さんの書著『雅子さまの笑顔  生きづらさを超えて』からお届けします。

*   *   *

「皇后は」と語った上皇さま。「雅子は」と語る今上天皇

『水運史から世界の水へ』(NHK出版)という本を読むと、天皇陛下が雅子さまにとって、どれほど良いパートナーかということがよくわかる。それは2019年(平成31年)4月5日に出版された徳仁親王による著書で、陛下が1987年(昭和62年)から2018年(平成30年)までになさった「水問題」についての講演がまとめられている。

陛下は学習院大学の卒論に「瀬戸内海の水運史」を取り上げて以来、この問題を研究されてきた。皇太子時代に新たな公務の方向性を尋ねられるたび、「自分自身も携わってきた水の問題」と必ずあげてもいる。そんな陛下のライフワークへの情熱があふれる本だ。だが、あふれているのはそれだけではない。雅子さまへの愛もあふれている。

「はじめに」の最後、刊行に際しての謝辞として天皇皇后(当時)を筆頭に、12人の名前をあげている。締めくくりはこうだ。

「そして、私の水に対する関心に、いつも理解と協力をしてくれている妻の雅子にも感謝の気持ちを伝えたいと思います」

第七章「水災害とその歴史」は学習院女子大学での講義(2012年1月28日)と補足からなるものだが、四十数ページの間に「雅子とともに」という言葉が七回、登場する。古代の大津波などにも触れられているが、雅子さまの名前が出てくるのは主に東日本大震災とその被害について述べた部分。「雅子とともに」現地に行き、被災地に心を寄せ続けている。そう書かれている。

「雅子とともに」は、令和流皇室を考えるキーワードだと思う。

上皇さまと美智子さまは、お二人で平成流を築いてきた。被災地では膝を折って被災者を励まし、国内外の戦争跡地では深く頭を下げた。美智子さまは常に陛下より、少し後ろを歩かれた。昭和一桁生まれ同士のお二人には、それはごく自然なことだったろう。互いの呼び方もそうだ。

上皇さまは皇太子時代、記者会見をしばしば開いていた。昭和が終わった直後の1989年(平成元年)3月、『新天皇家の自画像』(文春文庫)という本が出版されている。ご一家の記者会見がすべて記録されている貴重な史料なのだが、そこに登場する上皇さまは美智子さまのことを「美智子は」と一度も呼んでいない。その会見に同席する、またはお一人で会見をする美智子さまは「殿下が」「東宮様は」と何度も言っていた。だが上皇さまの口から「妃は」「美智子は」という言葉は出ていない。天皇に即位してからはもっぱら「皇后は」という言い方で、やはり「美智子は」ではなかった。

現在の陛下は本の中だけでなく、皇太子時代の記者会見でも一貫して「雅子は」と述べている。1960年代生まれのお二人にとっては、そちらが自然だったということだろう。

関連書籍

矢部万紀子『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』

弾けるような笑顔、華やかなファッション、外国賓客に対する堂々たる振る舞いと、日々輝きを増す皇后雅子さま。しかし、一九九三年のご結婚から今日までの道のりは、長く苦しいものだった。外交官から皇室へと新しい人生を選択したものの、男子出産の重圧にさらされ、生きる意味を見失った日々。そこからどう立ち直ってこられたのか?失わなかった「普通の人としての感覚」とは?雅子さま、そして愛子さまほか女性皇族にとって生きやすい皇室を考えながら、誰にとっても生きやすい社会のあり方を問う、等身大の皇室論

矢部万紀子『美智子さまという奇跡』

一九五九(昭和三四)年、初の民間出身皇太子妃となった美智子さま。その美しさと聡明さで空前のミッチーブームが起き、皇后即位後も、戦跡や被災地を幾度となく訪れ、ますます国民の敬愛を集める。美智子さまは、戦後の皇室を救った“奇跡”だった。だが、今私たちの目に映るのは、雅子さまの心の病や眞子さまの結婚問題等、次の世代が世間にありふれた悩みを抱えている姿。美智子さまの退位と共に、皇室が「特別な存在」「すばらしい家族」である時代も終わるのか? 皇室報道に長く携わった著者による等身大の皇室論。

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矢部万紀子 コラムニスト

1961年三重県生まれ。コラムニスト。83年朝日新聞社に入社し、記者に。宇都宮支局、学芸部を経て、「アエラ」、経済部、「週刊朝日」に所属。94年、95年、「週刊朝日」で担当したコラムをまとめた松本人志『遺書』『松本』(ともに朝日新聞出版)がミリオンセラーになる。「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理をつとめたのち、書籍編集部で部長をつとめ、2011年、朝日新聞社を退社。シニア雑誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長となる。17年に株式会社ハルメクを退社し、フリーランスで各種メディアに寄稿している。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)がある。

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