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セックス依存症

2021.02.13 公開 ポスト

AV男優・森林原人と語る そもそも「性欲」とはなにか? 斉藤章佳

2000人以上の性依存症者と向き合ってきた斉藤章佳さんの新刊『セックス依存症』(幻冬舎新書)では、性依存症が引き起こす生きづらさや数多くの弊害、そして回復への道筋について解説しています。
しかし本来、性やセックスは人間が生きる上で欠かせないもの。今回は、たくさんの人の性にまつわる悩みに答えてきた森林原人さんと、「性欲」「アダルトコンテンツ」「性的同意」「性教育」「幸福なセックス」などあらゆるテーマを語り尽くした本書収録の対談から、その一部を公開します。

*   *   *

性欲をはかる尺度はあるのか?

斉藤 性依存症の問題に向き合っていくなかで、「性欲とはいったいなんだろう」と考えることがあるんです。勃起や射精をすることなのか。性欲をはかる尺度はなんなのか。

これまで私が関わってきた多くの性犯罪者のなかには、問題行動を起こす動機が必ずしも性欲ではないケースが実に多い。痴漢の例でいえば、問題行為に及んでいるときに勃起も射精もしていない人もいますし、「他の人と比べて性欲が強いとは思わない」と言う当事者もたくさんいました。

森林 僕が考えるに、性欲は6つのカテゴリーに分けられると思うんです。

(1)性的接触行為によって肉体的快感を得たい(肉体的快感欲)
(2)相手を所有・支配・征服したい(支配関係欲)
(3)精神的につながりたい(連帯関係欲)
(4)セックスを通して社会的な評価を得たい(社会的承認欲求)
(5)遊びや非日常的な時間や感覚を堪能したい(娯楽欲)
(6)自分の子孫を残したい(生殖欲)

という具合です。僕は、(6)の「子孫を残したい」という欲望に関してはあまりピンときてないんです。というのも、「男性は子種をばらまくために、いろんな女性とヤりたくなるようDNAにインプットされてるんだ」という話って、あまりに男性側に都合のいい神話なんじゃないかと思ってて。

だって性依存症者でも、AV業界の人間でも、「子孫を残したい」という欲望に突き動かされてセックスする人って皆無だと思うんです。子づくりって、欲望というよりは意志ですよね。すごく理性的な判断がそこにはあって、子どもはその結果でしかないと考えています。

最近のAVでは、「種付けプレス」なんて言葉があります。これは、女性を押さえ込んで膣奥で射精すると、精子が子宮に泳いでいって妊娠させられちゃう……というエロ漫画的妄想を実写化したものです。パッケージには「妊娠確定」「孕(はら)ませ」なんてワードも並びますが、子どもがほしいわけではなく、マーキング的な意味での支配欲からくる言動です。だから、女優さんのお腹が大きくなった描写は出てきません。

斉藤 一見、(6)の生殖欲に関わりがあると思いきや、それはあくまで(2)の支配欲や男尊女卑的価値観の延長線上にあるものですよね。

森林 そうです。やっぱり「愛の結晶として子どもを残そう」みたいなセックスはユーザーからは求められてないし、たとえ見たとしても興奮の対象にはならないと思うんですよね。

斉藤 そういう「愛」と密接したセックスはAVでは描かれないわけですね。

森林 ないわけではありませんが、僕の体感では1%といったところじゃないでしょうか。

かつては「一盗二婢三妾四妓五妻(いっとう・にひ・さんしょう・しぎ・ごさい)」〈*1〉という言葉がありました。これは男性が女性との性行為で興奮する相手の順番を表したもので、要は男性は「人妻や他人の彼女との不道徳なセックスに一番興奮する」ということなんですね。妾(めかけ)や使用人は現代では一般的ではないですが、不倫がなくならないことからしても、不道徳さや罪悪感が性欲に火をつけるのは変わってないかもしれません。

じゃあ実際に、現代の男たちはなにに興奮するのか、ということで大手アダルトサイトFANZAの人気検索ワードを見てみたんです。これは2018年のデータなんですが、1位「熟女」、2位「巨乳」、3位「痴漢」という結果でした〈*2〉。

斉藤 このデータでは、ユーザーの7割が男性のようですね。

森林 はい。AVでいう「熟女」とはおおよそ30代以降の女優さんが出演している作品を指すんですが、30代以降のユーザーは自分と同世代の女性に興奮するのでしょう。不道徳性ではなく、同性代ゆえの共感性やリアリティに興奮していると思います。これは僕も40歳を過ぎ、20歳前後より40歳前後の女性に性欲を抱くので、実感に基づく説です。

斉藤 なるほど。そしてここで注目すべきは、3位の「痴漢」ですよね。

森林 はい。最近では、サイト側も作品のタイトルを「痴●」と伏せ字にするなど性犯罪防止の意識も高まっているようですが、やはり男性の性欲は支配欲と根深くつながっていることが、このようなデータひとつとっても垣間見えると思います。

関連書籍

斉藤章佳『セックス依存症』

社会的、経済的な損失を何度も被りながら、強迫的な性行動を繰り返してしまうセックス依存症。「セックス中毒」などと偏見を持たれがちだが、実は性欲だけの問題ではない。 脳の報酬系に機能不全が生じて「やめたくても、やめられない」状態に陥ることに加え、支配欲や承認欲求、過去の性被害や刷り込まれた性的嫌悪、「経験人数が多いほうが偉い」といった男らしさの呪いなどが深く関わっているのだ。 2000人以上の性依存症者と向き合ってきた専門家が、実例をもとにセックス依存症の実態に迫り、その背景にある社会問題を解き明かす。

斉藤章佳『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』

子どもへの性加害は、心身に深い傷を残す卑劣な行為だ。なかでも問題なのが、顔見知りやSNS上にいる“普通の大人″が子どもと信頼関係を築き、支配的な立場を利用して性的な接触をする性的グルーミング(性的懐柔)である。「かわいいね」「君は特別だ」などと言葉巧みに近づく性的グルーミングでは、子ども本人が性暴力だと思わず、周囲も気づきにくいため、被害はより深刻になる。加害者は何を考え、どんな手口で迫るのか。子どもの異変やSOSをいかに察知するか。性犯罪者治療の専門家が、子どもを守るために大人や社会がなすべきことを提言する。

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セックス依存症

不倫を繰り返して離婚、風俗通いで多額の借金、職場のトイレでの自慰行為がバレて解雇……。度重なる損失を被りながら、強迫的な性行動を繰り返すセックス依存症。実は性欲だけの問題ではなく、脳が「やめたくても、やめられない」状態に陥ることに加え、支配欲や承認欲求、過去の性被害、「経験人数が多いほうが偉い」といった〈男らしさの呪い〉などが深く関わっているのだ。

2000人以上の性依存症者と向き合ってきた斉藤章佳さんの新刊『セックス依存症』(幻冬舎新書)から、その一部を公開します。

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斉藤章佳

精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症回復施設である榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物依存、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニア(窃盗症)などあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2020年4月から現職。専門は加害者臨床。著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)、『「小児性愛」という病』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方』(集英社)、監修に漫画『セックス依存症になりました。』(津島隆太作、集英社)がある。

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