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セックス依存症

2021.02.13 公開 ポスト

AV男優・森林原人と語る そもそも「性欲」とはなにか? 斉藤章佳

「首絞めて」男尊女卑を内面化した女性の性欲

斉藤 女性の性欲については、森林さんはどうお考えですか?

森林 本にもありましたが、女性も男尊女卑をベースとした価値観を知らず知らずのうちに内面化している人が多いと思います。とくに僕が現場で気になるのは、「首絞め」などのマゾヒスティックなプレイを若い女優さんが多く求めてくることです。

斉藤 首絞め、ですか。

森林 あれこれいろんなセックスを試して飽きてきたベテラン女優さんが言うならまだわかりますが、デビュー作の撮影時に「私、首絞めされたいです」と訴える子もいるんです。

デビュー作では過激すぎるプレイはしないのが原則なのでやりませんが、これはごく一般の人々の間でも、男女間の「支配/被支配」が明確なプレイを行っている人がいかに多いか、それを如実に表しているともいえます。

斉藤 女性も「支配欲」としての性欲をすでに内面化しているんですね。

森林 女性向けAVでは、「マッサージもの」というジャンルも非常に人気があります。これは、マッサージ師の施術中に身体のあちこちを触られた女性が、最初は抵抗を示しながらも、やがて快楽に流されてなし崩し的にセックスしてしまうというものです。

マッサージでは身体を他者に預けるし、いってみればこれは「日常にある支配的空間の延長線上」です。女性の性欲もその人が本来持っている欲求というだけでなく、男尊女卑の価値観が根強い社会からの刷り込みによって定義されている部分も大きいと思います。

性欲は「条件付け」と「学習」でアップデートされる

斉藤 性的な欲求は社会的な刷り込みに加えて、条件付けの側面もありますね。

痴漢の例でいえば、制服を着た女子中高生を執拗に狙う性犯罪者が多くいます。これは、単なる制服へのフェティシズム的な視点だけではありません。当事者に話を聞くと「制服は従順の象徴だから」と口を揃えて言うんです。制服には「抵抗しない、反発しない、泣き寝入りしそう」といったイメージがあると。

森林 決して「スカートの丈が短いから」といった露出の問題じゃないんですね。

斉藤 はい。これは知人女性の話なんですが、彼女は学生のころ、あえて私服で平日の満員電車に乗ってみたそうです。彼女はパンクっぽい服を好んで着ていたのですが、見事に私服では痴漢に遭わなかったそうです。制服は従順の象徴というように、性欲も社会のなかで条件付けられていくものなのだと思います。

森林 男優の立場からいえば、性欲の強弱や性癖のバリエーションは学習によって増やせるものだとも思うんです。というのも、最近は事前に撮影内容を知らされることも多いんですが、僕たち男優は、セックスする相手は現場に行くまでわからない、なんてことが当たり前でした。

18歳の新人かもしれないし、65歳かもしれない。それでもプロとしては、たとえ自分が興味のないタイプの相手だろうが、まったく興味のないプレイだろうが、監督の指示どおりに勃起して射精しないといけません。

斉藤 あらためてすごい過酷な仕事なんだなと思います。

森林 以前、ゴスロリものの撮影があったんですが、当時の僕はその良さが全然わからなかった。禁欲的でふわふわとかさばる衣装を着て、胸も股間もまったく見えない状態でのセックスでどう興奮していいのか理解できず、反応できなかったんですよね。

普通の人なら「自分の好みじゃないんだ」と選択肢から外せばいいんですが、男優はそれでは許されない。そこで趣味も兼ねて、同じジャンルの作品を見たり、ゴスロリ好きの男性に話を聞いていったんです。そうすると「あ、こういう良さもあるんだ」とゴスロリの良さがだんだんわかっていったんですね。

斉藤 性嗜好を学習していったと。

森林 はい。今はゴスロリ以外にもいろいろと広がり、いわゆる「ニューハーフ」の人や男性とのセックスも興奮します。生まれ持った性的指向に気づいていったわけではなく、学習の成果で性欲のあり方を拡大したんです。そういった意味で、同性愛者と僕の性欲は成り立ちが違っていて、根っこにあるのは愛ではなく欲ですね。同性「欲」者です。

学習して身についたものだから、学習が更新されると、かつて自分が興奮していたものでも興奮できなくなっていくこともあるんです。

森林原人さん

以前の僕は、女性がセックスで「イヤ」とか「やめて」と抵抗することに興奮を覚えていた時期もありました。いわば「イヤよイヤよも好きのうち」を真に受けていた。「女性器は挿入したら自動的に反応する装置」くらいの認識でした。しかし近年、性的同意について学んでいくにつれ、女性の嫌がる様子を見るとすごく萎えてしまうようになりました。

斉藤 学習によって、性欲の条件付けも変わっていったんですね。

森林 まさしく。今考えると、僕の一方的なやり方で不快な思いをした女性もいるのでは、と思い返して反省することもあります。そんな僕が言うのもなんですが、こういった「認知の歪み」は学習によって矯正されていくから、生まれながらの性的悪人はいないんじゃないかと思うんです。

関連書籍

斉藤章佳『セックス依存症』

社会的、経済的な損失を何度も被りながら、強迫的な性行動を繰り返してしまうセックス依存症。「セックス中毒」などと偏見を持たれがちだが、実は性欲だけの問題ではない。 脳の報酬系に機能不全が生じて「やめたくても、やめられない」状態に陥ることに加え、支配欲や承認欲求、過去の性被害や刷り込まれた性的嫌悪、「経験人数が多いほうが偉い」といった男らしさの呪いなどが深く関わっているのだ。 2000人以上の性依存症者と向き合ってきた専門家が、実例をもとにセックス依存症の実態に迫り、その背景にある社会問題を解き明かす。

斉藤章佳『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』

子どもへの性加害は、心身に深い傷を残す卑劣な行為だ。なかでも問題なのが、顔見知りやSNS上にいる“普通の大人″が子どもと信頼関係を築き、支配的な立場を利用して性的な接触をする性的グルーミング(性的懐柔)である。「かわいいね」「君は特別だ」などと言葉巧みに近づく性的グルーミングでは、子ども本人が性暴力だと思わず、周囲も気づきにくいため、被害はより深刻になる。加害者は何を考え、どんな手口で迫るのか。子どもの異変やSOSをいかに察知するか。性犯罪者治療の専門家が、子どもを守るために大人や社会がなすべきことを提言する。

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セックス依存症

不倫を繰り返して離婚、風俗通いで多額の借金、職場のトイレでの自慰行為がバレて解雇……。度重なる損失を被りながら、強迫的な性行動を繰り返すセックス依存症。実は性欲だけの問題ではなく、脳が「やめたくても、やめられない」状態に陥ることに加え、支配欲や承認欲求、過去の性被害、「経験人数が多いほうが偉い」といった〈男らしさの呪い〉などが深く関わっているのだ。

2000人以上の性依存症者と向き合ってきた斉藤章佳さんの新刊『セックス依存症』(幻冬舎新書)から、その一部を公開します。

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斉藤章佳

精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症回復施設である榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物依存、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニア(窃盗症)などあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2020年4月から現職。専門は加害者臨床。著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)、『「小児性愛」という病』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方』(集英社)、監修に漫画『セックス依存症になりました。』(津島隆太作、集英社)がある。

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