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『野武士のグルメ』を味わい尽くす

2014.03.21 公開 ポスト

大根仁×久住昌之対談
第2回 食への嗅覚はいかに身につくか?大根仁/久住昌之


第1回の記事はこちら

 

お店での怯え、悩み、失敗こそが貴重な経験

大根 ところで、『野武士のグルメ』は、コミカライズ用にストーリーを起こし直したりしたんですか?

久住 いや、僕のエッセイをそのまま土山さんに読んでもらって、あとは土山さんなりに物語をつくってもらってます。
 今回、単行本化するにあたり、1話書き下ろしたんです。『謎のトースト定食』という話なんですが、これは、それまでの土山さんのコミカライズ版を見てきたうえで、新たに書いた一本になります。

 舞台は、ラーメンとかも置いているような、古くからある町の喫茶店です。そこにトースト定食ってのがあって、コーヒー付き650円。「これは一体、どんなメニューなのか!?」という話です。主人公はあれこれ想像したあげく、「えーい頼んでみよう」と、これを注文。そして野武士の前にとんでもない一品が表れる。対峙した野武士は、どうする? ……という話の続きは、ぜひ単行本でチェックしてください。

 大根 『孤独のグルメ』にしろ『野武士のグルメ』にしろ、怯んだり、失敗したりするのがいいんですよね。店選びとか、注文とかでさんざん悩んだあげく大失敗するとか。『野武士のグルメ』に出てくるラーメンの話(『悪魔のマダム』)なんて、最高ですよ、あの失敗ぐあいがたまらない。「くっ、酔ってさえいなければ」みたいなところとか、共感しましたね。店に入った瞬間から何となくイヤな予感はしたんだけど、「もしかしたら……」と淡い期待を抱いてしまった自分のスケベ心すら憎い、みたいな。テーブルに置かれた箸まで憎いとか、翌日まで後悔を引きずるとか、「すげぇわかる!」と膝を打ちました。

久住 ははは、悔しいことありますよね。結局、選んだのは自分だから、悪いのは自分。誰も悪くない……というのがわかるから余計悔しい、みたいな。

大根 でも、経験を積んでくると、一見の店でもそんなに失敗しなくなるじゃないですか。久住さんでも、いまだにあるんですか?

久住 けっこうありますよ。たしかに、場数を踏めば自分なりの経験則とか嗅覚は磨かれるところもありますけどね。最近の人は、ネットの飲食店レビューを見て、その点数や評価が本当かどうか、っていう嗅覚もあるみたいですけどね。

大根 「これは店が撮った写真だろう」と邪推してみたり。

久住 「この写真の焼き具合から見て、ダメな店だろう」とか。情報無しで、知らない店に飛び込むという「冒険」が無いですね。

大根 以前、浅草の観音裏界隈、裏浅草みたいなところで撮影をしたんです。そのあたりは喫茶店がとても多く、さらにどこの喫茶店にもなぜか必ずカツ丼がある。そういうのがすごく面白くて。あの雰囲気、すげぇよかったですね。

久住 「裏浅草の喫茶店には名物でカツ丼がよく売られている」っていうことを、自分自身で発見した時ってすごく嬉しいし、「浅草」の本質の一部をがっちり捕らえられるんです。

大根 レビューサイトで調べてみても、そういうお店の情報って載っていなかったりする。こんな都心のど真ん中で、まだレビューサイトに蹂躙されていない店があるのか、と驚きました。でも、お店にはちゃんとお客さんが入っているんですよね。地元の常連さんに愛されていて、みんなカツ丼を食べたりしている。

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『野武士のグルメ』を味わい尽くす

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大根仁

1968年生まれ。ADとしてキャリアをスタートさせ、テレビ演出家・映像ディレクターとして、数々の傑作ドラマ、ミュージックビデオを演出。『劇団演技者。』『週刊真木よう子』『湯けむりスナイパー』など深夜ドラマでその才能をいかんなく発揮し、話題作を連発。業界内外から高い評価を受ける。テレビドラマや舞台の演出を手掛ける傍ら、ラジオパーソナリティ、コラム執筆、イベント主催など幅広く活躍する先鋭的なクリエイター。脚本・演出を手掛けたドラマ『モテキ』(テレビ東京)が2010年7月より放送開始し大ブレイク。待望の映画監督デビューを映画『モテキ』(東宝)にて飾り、映画界に参戦する。

久住昌之

1958年東京都生まれ。マンガ家、ミュージシャン。1981年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」の『夜行』でマンガ家デビュー。実弟・久住卓也とのユニットQ.B.B.作の『中学生日記』で第45回文藝春秋漫画賞を受賞。谷口ジローとの共著『孤独のグルメ』、水沢悦子との共著『花のズボラ飯』など、マンガ原作者として次々と話題作を発表する一方、エッセイストとしても活躍する。現在、幻冬舎plusにて『漫画版 野武士のグルメ 3rd season』(画:土山しげる)を大好評連載中。

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