映像版「野武士のグルメ」はぜひ大根さんに
久住 そのためにも、失敗を恐れず、労を惜しまず歩き回る必要があるんです。でも、多くの方が結論にばかり注目するんですね。「どうしたら、作中に出てくるようなうまそうなモノに出会えるんですか?」「コツはなんですか?」みたいなことをよく聞かれます。おいしいものを描いているんじゃない、おいしそうな人を描いているんです。
それゆえ、結論よりも過程。というか、過程しか考えていないかもしれない。「何がおいしいか」を知りたいなら、それこそガイド本やカタログでいいわけで。僕はマンガをつくっているわけだから、どうやってそれを食べたかだけが描きたいんです。面白くて、読んでいるうちにお腹がすくようなお話を考えているだけです。
大根 いや、実は俺も、まったく同じことを考えているので、びっくりしました。俺が監督する映像でも、作中でキッチリと結論を示したいみたいな欲はそんなになくて、そこに至るまでのどうでもいいシーンを撮りたい、みたいな気持ちが強いんです。
たとえば『寅さん』シリーズなんて、最たるものですよ。物語の最後に、誰と誰がくっついたとか、別れたとか語られますけど、個人的にはわりとどうでもいい。それよりも、寅さんが“とらや”に帰ってきて、茶の間でくだらないやり取りをしているところが最高に面白い、とかね(笑)。『北の国から』も然り。メインキャラクターたちがその後、どうなっていったのかとかはあまり興味がなくて、それよりも富良野の町のグズグズした人間関係がたまらなく好きで、そこで繰り広げられるどうでもいいやり取りを、ずっと見ていたいほうでした。
そういう感覚が、なかなか見る人に伝わらないのが難しいところでして。
久住 あぁ、そういう話を聞いてしまうと、ますます大根さんに『新さん』を撮ってもらいたくなるなぁ。
大根 ありがとうございます。ただ、いまは俺、映像版『野武士のグルメ』の監督をけっこう本気で狙ってますんで!
(構成:漆原直行 撮影:菊岡俊子)