野武士的な食の美学の追及、それは己との戦い
土山の「食べ方」の描写は、『極道めし』でさらなる進化を遂げた。『食キング』は食べ方よりも料理そのものの描写に重点が置かれていたし、『喰いしん坊!』などの大食いバトルは「うまそう」というのとはちょっと違う。その点、『極道めし』は、いかにうまそうに食べるかが見せ場である。受刑者たちが再現してみせる〈旨いモン〉を食べたときの表情やリアクションは、決して上品ではないが真に迫り、その味を口中に湧き立たせずにはおかない。かきあげそばのかきあげにつゆが染みる〈ジュブジュブ〉、卵かけご飯をかき込む〈ザフッザフッ〉、トンカツにかぶりついたときの〈ザムッ〉、オムライスにスプーンを入れたときの〈サフッ〉など、シズル感満点の擬音にも独自の工夫があった。
そこで磨いた技が『野武士のグルメ』にも活かされている。久住原作の食マンガは、たいてい主人公主観の一人称で描かれる。もちろん、エッセイとして書かれた『野武士のグルメ』の原作も一人称だ。対して、土山のこれまでの作品は基本的に三人称のドラマである。ただし、『極道めし』に関しては、受刑者たちがそれぞれの〈旨いモン話〉をする場面においては一人称の語りとなる。やはり一人称で語られる『野武士のグルメ』は、そういう意味でも『極道めし』の延長線上にあると言えるだろう。
思えば、野武士と極道って、似ていなくもない。野武士的な食の美学を追求し、いわば己との戦いを描いてきた久住作品。アウトロー的な主人公が、食をめぐってライバルや難題と戦う土山作品。敵のあり方は違うが、通じる部分はある。
このコンビ、今まで組まなかったのが不思議なくらい、実は相性がよかったのだ。
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