若者たちの理想は「嵐」?
原田 最近、テレビ番組で嵐の櫻井翔さんとご一緒したんですよ。彼は僕と同じ慶應大学の5つ下の後輩なので、その点について番組内で絡んだら、大量の嵐ファンの皆さん、どうやら嵐が病気になるくらい好き、という意味でアラシックと呼ばれているようなのですが、その方たちが僕のTwitterアカウントをフォローしてくれまして……(笑)。
岸見 いいですね。
原田 彼女たちとやりとりしていて、最近の若い子が理想とする人間関係って、嵐のメンバーが体現しているんじゃないかな、と思ったんですよ。メンバーのそれぞれが、役者やニュースキャスターといった得意分野を持っていて、ひとりひとりが独立していているけど、集まると仲がいい。そして重要なのが、リーダーがいないということです。いちおう大野さんがリーダーいうことになっていますけど、強権的にふるまっているわけではありませんからね。
岸見 それはおもしろい見方ですね。僕が思うのは、もし人間の意識や価値観が変わるとすれば、今の若者世代のほうが、上の世代に比べてきっと早いはずだということです。
原田 と言いますと?
岸見 先日、ある女子学生が講義の後に、慣れない敬語を使って僕に質問してきました。そうしたら、その様子を見ていた彼女の友人が、「言葉遣いには気をつけなあかん」と注意したんですね。僕はその発言が何を意味するのか、よくわからなかったのですが、友人の意図を理解した彼女は、突然タメ口で話し始めました。
原田 敬語をちゃんとするんじゃなくて、タメ口とは(笑)。そういえば、残存ヤンキー集団のリーダーである僕の同級生も、20代の後輩たちが、先輩である自分に対してときどきタメ口になることを嘆いていましたよ。
岸見 タメ口なんて、僕の学生時代にはありえなかったのですが、今の若者は目上の人に対して敬語を使うことに、固執していないようです。つまり何が言いたいかというと、もし彼らが今の自分の生き方の不自由さに気がつけば――この場合は「慣れない敬語を使う」ということですが――価値観を変えること自体は早いということです。上の世代の人は、不自由であることがわかっていても、容易には変えられません。変える勇気がないのです。
原田 なるほど。そういう意味では、彼らはあっという間に上の世代が眉をひそめるような価値観に変わることができる可能性を秘めていると言えますね。
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