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『「うつ」は病気か甘えか。』刊行記念 村松太郎×斎藤環対談

2018.06.23 公開 ポスト

「ストレスでうつ病になる」はおかしい!?【リバイバル掲載】村松太郎/斎藤環

幻冬舎では各電子書店で「憂鬱を吹き飛ばせ!エッセイ本フェア」を開催しています。今回はフェアに合わせて「憂鬱」というワードに関連のある、過去の人気記事をご紹介いたします。

   2008年にとうとう100万人突破!! 10年で2.4倍に増えたうつ病。あなたの周りの「うつ」、それホント? ウソ? 大学病院の現役医師がこの禁断の問いに挑んだ問題の書「『うつ』は病気か甘えか。」。その刊行を記念して、「うつは甘え」派の医師と「うつは病気」派の医師が、徹底論戦(!?)しました。

「病気派」VS「甘え派」

斎藤 『うつは病気か甘えか。』を拝読しました。この対談では「病気派」の私と「甘え派」の村松先生の論争が期待されているようですが(笑)、共感しつつ読んだ部分もあります。単純に「うつ=甘え」と決めつけてはいないので、どちらの立場からも受け入れやすい内容でしょう。

村松 どうもありがとうございます。
斎藤 まず、うつ病とは別の話からお聞きしますが、外来で臨床をされているお立場から見て、最近、統合失調症は減っていますか?
 

村松 とくにそういう印象はないですね。ただうちの病院はちょっと特殊で、ほかで統合失調症の治療を受けていて、そこでは一定以上よくならないのでうちに来るという方が結構多いんです。
 

斎藤 なるほど。一方で、自治医大の利谷先生らによる10年ぐらい前の調査では、統合失調症の初診が10年間で半減したというデータがあります。私も昨年、初めて新患の統合失調症がゼロになりました。来るのは、慢性化して紹介されてきた人だけ。ほかの精神科のドクターたちも、9割方は「減った」と言いますね。
 

村松 それは病院によるんだと思いますね。

うつ病は心因性・器質性・内因性の三つに別れる


斎藤 なぜそんな話をしたかというと、もしそれが事実なら、うつ病も含めて、内因性の病気が地殻変動を起こしているのかもしれないからです。精神病は原因によって心因性・器質性・内因性の三つに大別されており、心因性は心の問題、器質性は脳の異常、内因性は原因不明で、たぶん器質性の問題だと思われるけれども、現在の技術ではそれが発見できないもの。うつ病は、もともと内因性だと考えられていました。しかし、この本でも紹介されている「電通裁判」で、うつ病と過労の因果関係が認められて以降、ストレスから発症するうつばかりになっている状況です。内因性のうつ病が外来に占める比率は減っていますよね。数が減ったかどうかはわかりませんが。
 

村松 相対的には比率は減ってますね。
 

斎藤 「病気か甘えか」の判断に困るような患者さんは、先生の外来でも増えていますか? あるいは、産業医の現場で相談を受けることが増えたのでしょうか。
 

村松 両方ですね。それに加えて、司法の現場で聞かれる弁護士の主張などが、われわれの病気概念とはズレている。臨床の現場だけで診る病気の概念と、産業や司法の場面では、温度差があるんです。
 

斎藤 この「甘え」の問題は、病気の診断と同じレイヤーの問題なのでしょうか。つまり、相互に排除するものなのかどうか。
 

村松 そうではないと思います。臨床の場面では、助けを求めてくる患者はすべて治療すべきであって、「本当はうつ病ではないんじゃないか」という差別をすべきではないでしょう。でも、それを「病気」と規定すると、社会では内因性であろうが何であろうが、みんな同じ病気と見てしまう。これは良くないと思います。
 

斎藤 ただ、そこで「病気」と「甘え」を分別するのは結構だけど、筋を通した医者が断っても、その患者はほかの医者に行きますよね。
 

村松 ええ、そうなんです、そうなんです。
 

斎藤 その問題に対する対策やお考えをうかがいたい。

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『「うつ」は病気か甘えか。』刊行記念 村松太郎×斎藤環対談

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村松太郎/斎藤環

村松太郎(むらまつ・たろう)
1958年、東京都生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神・神経科准教授。医学博士。日本精神神経学会精神科専門医。日本医師会認定産業医。刑事・民事事件精神鑑定なども行なう。主な著書に『認知症ハンドブック」(共著、医学書院)、『統合失調症という事実(ケースファイルで知る)』(監修、 保健同人社)、『名作マンガで精神医学』(監修、中外医学社)、『現代精神医学事典』(共著、弘文堂)、『道徳脳とは何か』(訳、創造出版)、『思春期臨床の考え方・すすめ方 前頭葉機能からみた思春期の病理』(共著、金剛出版)、『臨床神経学・高次脳機能障害学 -言語聴覚士のための基礎知識』(共著、医学書院)、『レザック神経心理学的検査集成』(監訳、創造出版)、『よくわかるうつ病のすべて』(共著、永井書店)など多数。

斎藤環(さいとう・たまき)
1961年、岩手県生まれ。筑波大学医学研究科博士課程修了。医学博士。爽風会佐々木病院等を経て、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、「ひきこもり」問題の治療・支援ならびに啓蒙。漫画・映画・サブカルチャー全般に通じ、新書から本格的な文芸・美術評論まで幅広く執筆。日本文化に遍在するヤンキー・テイストを分析した『世界が土曜の夜の夢なら』にて第11回角川財団学芸賞を受賞。著書に『社会的ひきこもり―終わらない思春期』 (PHP新書)、『生き延びるためのラカン』 (ちくま文庫)、『関係する女 所有する男』 (講談社現代新書) 、『思春期ポストモダン―成熟はいかにして可能か』 (幻冬舎新書)、『承認をめぐる病』(日本評論社)など多数。

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