幻冬舎では各電子書店で「憂鬱を吹き飛ばせ!エッセイ本フェア」を開催しています。今回はフェアに合わせて「憂鬱」というワードに関連のある、過去の人気記事をご紹介いたします。
2008年にとうとう100万人突破!! 10年で2.4倍に増えたうつ病。あなたの周りの「うつ」、それホント? ウソ? 大学病院の現役医師がこの禁断の問いに挑んだ問題の書「『うつ』は病気か甘えか。」。その刊行を記念して、「うつは甘え」派の医師と「うつは病気」派の医師が、徹底論戦(!?)しました。
「病気派」VS「甘え派」
斎藤 『うつは病気か甘えか。』を拝読しました。この対談では「病気派」の私と「甘え派」の村松先生の論争が期待されているようですが(笑)、共感しつつ読んだ部分もあります。単純に「うつ=甘え」と決めつけてはいないので、どちらの立場からも受け入れやすい内容でしょう。
村松 どうもありがとうございます。
斎藤 まず、うつ病とは別の話からお聞きしますが、外来で臨床をされているお立場から見て、最近、統合失調症は減っていますか?
村松 とくにそういう印象はないですね。ただうちの病院はちょっと特殊で、ほかで統合失調症の治療を受けていて、そこでは一定以上よくならないのでうちに来るという方が結構多いんです。
斎藤 なるほど。一方で、自治医大の利谷先生らによる10年ぐらい前の調査では、統合失調症の初診が10年間で半減したというデータがあります。私も昨年、初めて新患の統合失調症がゼロになりました。来るのは、慢性化して紹介されてきた人だけ。ほかの精神科のドクターたちも、9割方は「減った」と言いますね。
村松 それは病院によるんだと思いますね。
うつ病は心因性・器質性・内因性の三つに別れる
斎藤 なぜそんな話をしたかというと、もしそれが事実なら、うつ病も含めて、内因性の病気が地殻変動を起こしているのかもしれないからです。精神病は原因によって心因性・器質性・内因性の三つに大別されており、心因性は心の問題、器質性は脳の異常、内因性は原因不明で、たぶん器質性の問題だと思われるけれども、現在の技術ではそれが発見できないもの。うつ病は、もともと内因性だと考えられていました。しかし、この本でも紹介されている「電通裁判」で、うつ病と過労の因果関係が認められて以降、ストレスから発症するうつばかりになっている状況です。内因性のうつ病が外来に占める比率は減っていますよね。数が減ったかどうかはわかりませんが。
村松 相対的には比率は減ってますね。
斎藤 「病気か甘えか」の判断に困るような患者さんは、先生の外来でも増えていますか? あるいは、産業医の現場で相談を受けることが増えたのでしょうか。
村松 両方ですね。それに加えて、司法の現場で聞かれる弁護士の主張などが、われわれの病気概念とはズレている。臨床の現場だけで診る病気の概念と、産業や司法の場面では、温度差があるんです。
斎藤 この「甘え」の問題は、病気の診断と同じレイヤーの問題なのでしょうか。つまり、相互に排除するものなのかどうか。
村松 そうではないと思います。臨床の場面では、助けを求めてくる患者はすべて治療すべきであって、「本当はうつ病ではないんじゃないか」という差別をすべきではないでしょう。でも、それを「病気」と規定すると、社会では内因性であろうが何であろうが、みんな同じ病気と見てしまう。これは良くないと思います。
斎藤 ただ、そこで「病気」と「甘え」を分別するのは結構だけど、筋を通した医者が断っても、その患者はほかの医者に行きますよね。
村松 ええ、そうなんです、そうなんです。
斎藤 その問題に対する対策やお考えをうかがいたい。