甘えのうつ病で会社に出ない人をどうするのか?
斎藤 ご著書の中には、産業医として経験された事例もありましたね。通勤の意思はありながら欠勤が多い人の扱い方はすごく頭が痛いところだと思いますが、こういうケースも増加傾向にあるのでしょうか。
村松 それは間違いないですね。しかし、それはもう医療で対処する範囲の問題ではないので、職場内のルールを作って粛々と処遇する以外にないと思います。
斎藤 私もそう思います。病気だろうと何だろうと「何日以上休んだら休職しなさい」という縛りがあればいい。でも、職場がそのルール作りに及び腰なんですかね。
村松 一番の問題は、ルールの隙間を縫う人がいることですけどね。それを別にすれば、医療の側が病気か否かをある程度は峻別してあげないと、会社もどうすればいいかわからないでしょう。内因性のうつ病や統合失調症など、治療が必要な人にまで厳しくするのはどうかと思いますが、全体に病気の範囲が広がってきちゃうと、「医者は病気と言うけど、こんなのは甘えじゃないか」と思われるケースが出てくる。われわれが見れば治療が必要と思う病気まで「甘え」と思われてしまうことが問題だと思います。
「電通事件」判決の大きな影響
斎藤 電通事件以降、ストレス→うつ病→自殺の因果関係が堂々と認められています。われわれから見れば違和感がありまくりですが、それが司法界で認められて以降、雪崩を打って訴訟が増えました。
村松 「ストレスでうつ病になる」というのは、たぶん一般の人は抵抗ないと思うんですが、精神科医から見ると全然おかしいですよね。「会社以外にストレスはなかった。だから、うつ病になったのは会社のせいに決まっている」と弁護士が主張する裁判を、現に私は経験したことがあります。いかに荒唐無稽な主張かという自覚は、その弁護士には全くなかったみたいでしたね。
斎藤 本来うつ病は「原因不明の感情障害」だったので、ある世代より上の精神科医は「こんなにわかりやすい原因があるうつ病ばかりでいいのか?」と疑問を持っている。
村松 でも今は「ストレスがうつ病の大きな原因だ」というのが、訴訟におけるメインストリームの考え方ですね。
斎藤 今さらそこに違和感を申し立てると、「せっかく賠償金を取りやすい状況になったんだから邪魔するな」という話になってしまう?
村松 医者は患者側の立場に付くのが習慣になっていますから、そちら側から見ればそうなりますが、会社側から見たら不当な裁判となるので、それはやっぱり正義じゃないですよね。
斎藤 どう考えても「これは会社に非はないだろう」という訴訟はご経験ありますか?
村松 私自身はありませんが、判例上はあります。はっきり言って、言いがかり。
斎藤 それでも通ってしまう?
村松 通ることもあれば、通らないこともあります。病気として通ってしまう場合は、やはり診断書や医者の意見が大きく影響するんですよね。
斎藤 医者が患者のことを思うがあまり、贔屓の引き倒しになっている感じでしょうか。
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