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アルパカ通信 幻冬舎部

2022.05.27 公開 ポスト

第8回

小手鞠るい『情事と事情』/丸山正樹『ウェルカム・ホーム!』―それぞれの“事情”に、悩みながらも進む、2つの物語。アルパカ内田(ブックジャーナリスト)/コグマ部長

幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
丸山正樹『ウェルカム・ホーム!

27歳の大森康介は新米介護士。特別養護老人ホーム「まほろば園」に勤め始めたものの、入居者の便臭にはまだ慣れない。しかも認知症の人、言葉が不明瞭な人相手の仕事は毎日が謎解きだ。やがて、この仕事の面白さにだんだんと目覚め始めて……。

一方、こちらは27歳になる新米介護士の大森康介が主人公。派遣切りに遭い、「しかたなく」特別養護老人ホームの職に就いた。

そこの入居者には意地悪な人や手がかかる人、認知症の人や寝たきりの人もいる。康介はそんな人たちを相手に食事や入浴の介助、オムツ交換などの仕事をしている。しかし仕事は過酷で……と紹介すると、「お仕事小説」と安易なジャンル分けをされてしまうかもしれない。だが、この作品の面白さは、康介の目を通して介護現場の実情や、現代社会そのものの矛盾を、時にはコメディを交え、時にはミステリ要素をまぶしつつ描き切っているところである。

誰もが介護する側とされる側のどちらか(もちろん両方も)になる可能性があるのに、あえて直視するのを避けている。誰かがオムツを交換しないといけないし、お風呂に入れてきれいにしないといけない。そんな介護の仕事は、世の中には欠かせないとみんなわかっている。でもその一方で、こうも思っている。「でも自分はやりたくない」と。

読者は、康介のモヤモヤに共感しながらページを繰る。トラブルや壁にぶつかり、もたつきつつも乗り越えようとしていく康介。どこにも完璧な解決策などないが、とにかく元気をくれる小説だ。

特養ホームも、利用者にとっては大切な我が家。現実も矛盾も全部受け入れた康介が笑顔で待っている。読後、ちょっと大きな声で言ってみたくなる、「ウェルカム・ホーム!」と。

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アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。

幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!

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アルパカ内田 ブックジャーナリスト

内田剛(うちだたけし)。ブックジャーナリスト。約30年の書店勤務を経て2020年2月よりフリーランスに。NPO法人本屋大賞実行委員理事で創立メンバーのひとり。文芸書をメインに各種媒体でのレビュー、学校や図書館でのPOP講習会などを行なっている。これまでに作成したPOPは6000枚以上で著書に『POP王の本!』『全国学校図書館POPコンテスト公式本 オススメ本POPの作り方(全2巻)』あり。無類のアルパカ好き。
Twitter @office_alpaka

コグマ部長

太田和美(おおたかずみ)。幻冬舎営業本部で販売促進を担当。本はミステリからノンフィクションまでノンジャンルで読みまくる。アルパカ内田(内田剛)さんとは同学年。巨人ファン。
Twitter @kogumabuchou

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