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見つけたいのは、光。

2022.09.17 公開 ポスト

【飛鳥井千砂×藤岡陽子対談】人は自分が知らないことを考えるのが難しい。知ってもらうため、私たちは物語を紡いでいる。飛鳥井千砂/藤岡陽子

藤岡 今日は、飛鳥井さんにお伺いしたいことがあって。亜希と茗子という川の対岸にいる立場の二人が、共通して見ていたのが人気育児ブログで、その書き手である光さんという“架け橋”によって、お互いこんなことを考えているんだと、ひとつの流れになっていきますが、二人にとって、光さんって意外なキャラクターだったじゃないですか(笑)。

 

飛鳥井 今、私が通っている保育園が、私のようなフリーランスにも快適に仕事、育児ができるようにというコンセプトを持つ施設なんです。これまでなかったスタイルの園を考案し、起業されたのは女性社長さんです。社会に足りないものや女性が本当に求めていることを提案し、実現している方なんです。すごいなぁって、仰ぎ見ていたんですけど、保育園に通いながら半分友人としてお付き合いをさせていただいていたら、意外な面が見えてきて、すごく親しみを覚えたんです。「実は自分と変わらないんだ、この方も普通の人?」と思うことですっかり垣根がなくなったんですね。仰ぎ見ている人でも、もしかしたら自分もそこに行けるのかもしれない、敵対していた人だったとしても、話し合える部分があるんじゃないかとか、光さんはそんな私の垣根を取り去った気持ちを具現化した人なんです。

 

藤岡 すごく納得しました。小料理屋での三人のシーン、最後、ほんとうに緊迫するじゃないですか。「あなたたちは、私みたいにいい歳して子供のいない女性を、一括りにして、見下してはいないですか」という茗子の言葉は凄かった。これってきっと、子どもを持っていない人がどこかで思っている言葉ですよね。このひと言を言わせることってすごく勇気がいるし、それに対して答えることにも勇気がいる。

 

飛鳥井 書いていいのかなと思う部分はありました。私、子どもがほしいと思ってから出産まで十年くらい時間がかかったんですね。途中、子どものいない人生を生きていくとしたら、という話も夫としていて、自分たちのなかで二本の道を見ながら暮らしていた数年間がありました。産んでいない女性の気持ち、子どものいない夫婦の側の気持ちを自分は書きたいし、書けるんじゃないかって思っていたんですけど、出産してから知り合った人にそういう話をしたら、あなたは最終的には産んでいるんだから、そちら側を書くのは違うんじゃないかと言われたことがあったんです。すごく悩んで、実は今も悩んでいるんです。実際、私はSNSでも子どもの話を書いたりしているので、今の自分が茗子側に立ってあのセリフを書くのはどうなんだろうって思いましたし、そこを言わないのが、社会のルールとされているところを、たとえ小説のなかの言葉といっても、書いていいのかなという葛藤はすごくありました。

 

藤岡 書いてくれてよかった。そしてその言葉に対する亜希の答えにもこの物語が集約されている。ほんとうに個々の価値観でみんな生きているんだということがすごく迫ってきました。茗子側にいる人も救われるんじゃないかな。茗子の傷が癒えていくように、茗子に共感してきた読者もそこで癒やされると思いました。

 

飛鳥井 産んだ人も、産んでいない人も、実はちょっとシェアしたい気持ちを持っているんじゃないかなと。茗子はどこかできっとそういうものを持ちながら生きているし、亜希も自分が優越感を持ってしまっているんじゃないかという思いを持ちつつ、自分自身とせめぎ合いながら生きていると思うので、そういったところが表現できれば、という気持ちがありました。

 

―『空にピース』の主人公は澤木ひかり先生。そして『見つけたいのは、光。』と、偶然にも“ひかり”が共通しますね。

 

藤岡 主人公は最初からひかりにしようと思っていました。暗闇で扉が開く、そういう小説にしたかったから。それはきっと飛鳥井さんも一緒ですよね。閉塞感のなかにあっても、ひかりが見える小説にしたい、読者にとってもひかりになるようにという意図を、私は主人公の名前に込めたんです。

 

飛鳥井 まさに一緒です(笑)。作中で亜希が言っているのですが、望んでいるのは庭付きの一戸建てに住み、年に一回の海外旅行をして、カッコいい車に乗って、という具体的なところではなく、もう少し頑張ったら、明るいところに行けるのかもしれない、今ちょっと明るい場所が見えてきた、というくらいの光が差してくることだけなんです。はじめはどっち側に光があるかも見えていない状態に主人公たちはいるのですが、その地点から光があるかもしれないというところまで、彼女たちを連れていってあげたかったんです。

 

取材・構成/河村道子

関連書籍

飛鳥井千砂『見つけたいのは、光。』

私たち、何を、 どこに向かって、 頑張ればいいの──? 亜希と茗子の唯一の共通点は育児ブログを覗くこと。 一人は、親しみを持って。一人は、憎しみを抱えて。 ある日、ブログ執筆者が失踪したことをきっかけに、 二人の人生は交わり、思いがけない地平へと向かう。 自分だけの光が見つかる、心震える物語。

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見つけたいのは、光。

小説幻冬(2022年8月号 ライター瀧井朝世)、本の雑誌(2022年8月号 文芸評論家 北上次郎)、日経新聞(2022年8月4日 文芸評論家 北上次郎)、週刊文春(2022年9月15日号 作家 小野美由紀)各誌紙で話題!飛鳥井千砂5年ぶり新刊小説のご紹介。

「亜希と茗子の唯一の共通点は育児ブログを覗くこと。一人は、親しみを持って。一人は、憎しみを抱えて。ある日、ブログ執筆者が失踪したことをきっかけに、二人の人生は交わり、思いがけない地平へと向かうーー」

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飛鳥井千砂

1979年生まれ、愛知県出身。2005年、「はるがいったら」で第18回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。'11年に上梓した『タイニー・タイニー・ハッピー』がベストセラーとなり注目を集めた。他に『君は素知らぬ顔で』『女の子は、明日も。』『砂に泳ぐ彼女』『そのバケツでは水がくめない』など著書多数。

藤岡陽子

1971年、京都府出身。同志社大学文学部卒業。報知新聞社勤務を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大学に留学。慈恵看護専門学校卒業。2006年「結い言」が、宮本輝氏選考の北日本文学賞の選奨を受ける。'09年『いつまでも白い羽根』でデビュー。著書に『手のひらの音符』『晴れたらいいね』『おしょりん』『満天のゴール』『跳べ、暁!』『きのうのオレンジ』などがある。

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