一日一冊読んでいるという”本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第15回 薬丸岳『罪の境界』
こんにちは。教誨と教戒の境目がわからないアルパカ内田です。
渋谷のスクランブル交差点で起きた無差別殺傷事件。思いもよらない惨劇をきっかけとしたこの物語は、衝撃的なだけではない。人間の奥底に眠っている感情の塊をありのままに呼び起こすような迫力がある。一瞬たりとも見逃してはならない高密度な約500ページ。震えるような魂の叫びをどうか存分に聞き取ってもらいたい。
幸せな日常を一瞬にして奪われ心にも身体にも大きな後遺症を負った被害者の女性が、自分を助けようとして命を失った見ず知らずの男性の正体を突き止めようとする。彼が残した今際の言葉、「約束は守った……伝えてほしい……」はいったい誰にむけられたものだったのか。この謎解きだけでも第一級のミステリーである。
もうひとつのストーリーの軸は加害者に取材するライターの視点だ。犯罪は絶対的に許されないが、罪を犯した者にも人知れず抱え込んでいた事情があった。ここで浮き彫りにされるのは現代日本が抱える病巣ともいうべき子どもの虐待問題。この時代が生み出してしまった狂気から社会派の切り口も味わえる。
親と子、生と死、光と闇、善と悪といった「境界」を切実に感じさせながら物語は展開していく。一筋縄ではいかぬ人間ドラマが重層的に絡み合い、終盤の法廷シーンに息を呑む。取り戻せない罪の深さには胸を締めつけられるが、著者の視線は人間的で優しく、未来へと向けられている。いま最も信頼の置ける作品であることに間違いない。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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