「ソーシャル」とは「誰かの役に立つ」こと
湯浅 法政大学で教え始めたり、雑誌の『文藝春秋』で「この国を救う『新しい日本人』」という連載を始めて、今のキーワードは「ソーシャル」だと、強く思うようになりました。「社会問題の」とか、私みたいな「社会活動家」然としてる、と訳しちゃうとちょっと違って、「ソーシャル」って、「誰かの役に立つ」ぐらいの意味なんですよね。若い人たちには、それがとてもフロンティア感があって、しっくり来る。
今は誰かの役に立っているという実感が持ちにくい時代でしょ? だからこそ若い人たちの間では、誰かの役に立ちたいという感覚が非常に強い。
どんなに儲かるよと言われても、死ぬほど働くのは嫌だ。だけど、食えないのは困る。そんなに儲からなくていいから、食えて、誰かの役に立つ仕事がしたい。若者のそういう気持ちに寄り添って働きかけていくことで、香山さんがこの本で書いているようなことを、復権させていけないかなと思いますね。
香山 誰かの役に立つというのは、職業として、ということ?
湯浅 職業である必要はないと思います。本人は何らかの手段で食えないといけないけど、ある程度の収入さえ確保できれば、ボランティアとしてやってもいい。それで食えるんだったら、もちろんビジネスとしてやってもいい。その形態には、あまりこだわっている感じがしません。
ソーシャル一本で食っていくというのは、さすがにまだ多くはないですが、それでもかつてに比べれば、NPOとか社会的起業はずいぶん広まりましたよね。
香山 そのときに「ソーシャル」として想定している対象が、限定されているということはないですか。まちづくりとか、子育て支援とかは一生懸命やるけれど、マイノリティや差別の問題には関心がないとか。
湯浅 限定するつもりはなくても、事実上限定されてしまうことはあるでしょうね。排除している意識はないけれど、対象としてカウントしていないみたいな。そういう面はあると思うので、文春の連載は、福祉的なことと「まちづくり」の接点というか、福祉と「まちづくり」はつながっているということを強調するベクトルでやっています。
香山 だったら、そんなに憂うことはない?
湯浅 私は希望を見出しています。
香山 でも中国や韓国に対する今の状況を見ていると、「若い人たちはソーシャルなものに関心があるから大丈夫」とは、全然思えない。それこそ今は、中韓を叩く本じゃなきゃ売れない、みたいになっているでしょ?
たとえば社会的な活動とか護憲運動をやってる若者なのに、ちょっと話すと、「やっぱり韓国は許せない」なんて言う人がたまにいる。中国はまだしも韓国を叩くのは、「弱いくせに何言ってるんだ」という心理ですよね。それはソーシャルを志すことと矛盾しないんだろうか。「リベラルだったら、憲法は護憲、死刑は反対」みたいなイメージを持っている、こちらが古いとは思うんだけど。
湯浅 香山さんが無理して「大丈夫」と思う必要はないと思います。香山さんは香山さんのスタンスでやるしかない。
私自身は、日本の社会で、貧困や格差の問題が無視、あるいは軽視されているということをすっと指摘してきたんだけど、この2、3年、それを責任追及型の告発トーンでやることの限界を感じるようになった。だから今はポジティブな芽を拾い上げることに注力しています。
もちろん自分のやり方を他人に押しつけるつもりはありません。社会全体としては多様なベクトルからものを言ったほうがいいので、憂う人も必要だと思う。
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